False Islandのキャラブログ。日記ログとか絵とかネタとか色々。
キャラロールがぽんと飛び出ますので苦手な方はご注意を。
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「ありゃ、いつだったかな」
『28歳の後半ぐらいじゃなかったかい』
「だよな。俺の誕生日が大体真冬だから……こっちに飛ばされたのは秋の終わり頃か」
『あの人と会ったのは更にその一ヶ月前になるね』
ロージャと会話しながら、俺は手帳に万年筆を走らせていた。思い出した事から順に書き足していく。数ヶ月前の事でも意外と思い出せるもんだな……。
俺達は元の世界に戻る方法を探すべく、原点に返って俺をこっちに飛ばした奴の事を思い出していく事にした。文章にすれば今まで見えていなかった事や考えていなかった事があぶり出されるかもしれない。当時からもう一緒にいたロージャの記憶も参考にしている。
「最初は確か、あいつから話しかけて来たんだったな」
『そうそう、僕が気になった、とか何とか言って。あの町の人間じゃなかったね』
「ああ。あそこは俺以外は一人しか魔術師がいなかったからな」
言いながら当時暮らしていた町の事を思い出す。
当時俺が住んでいたのは静かな水辺の町で、魔術師は俺を含めて二人しかいなかった。珍しいのかよく町民に頼み事をされた。大体は失せもの探しや畑を荒らす害獣退治、時々迷い込んでくる弱い魔物の撃退などだった。
何で俺の所に来たのかと言えば、冒険者ギルドに頼もうにもそこまで大きな話ではないし、第一まとまった金がない。だから手近にいるあまり偉くなさそうな魔術師に頼んでしまえ、というのが実情だったらしい(もう一人はえらい年寄りだったから、あまり何度も依頼は頼めなかったんだそうだ)。
流石にただ働きではなくて、謝礼として多少の金や食料品をくれた。ギルドの仕事の報酬に比べたらかなり少ないが、それでも一人で生活する分には困らなかった。苦しい時は知人の探索の手助けをしたり、簡単な護符を作って売ったりした。大抵それで事足りた。
贅沢をしたいとは思わなかったし欲しいものもなかった。本当に欲しかったものはもう消えちまっていて、ただ無気力だった。それなのに死ぬのは嫌だった。だからそれなりに働いた。今から思うと、当時の俺は物凄く後ろ向きだった。
あの男が俺の前に現れたのはそんな時だ。
俺はその時、ロージャを抱えて公園の椅子でぼんやりしていた。『たまには僕の事も散歩に連れてけ!』とか何とか喚くから仕方なく持って行く事になったのだ。
町の連中は俺がでかい杖を持ってるのは知ってるし、魔術師が変なものを持ち歩くのはよくある事だからさして気にしなかった。
だからそいつに話しかけられた時は少し驚いた。
「変わった杖を持っているね」
悪目立ちするロージャが気にかかって声をかけてくる奴ってのは、都会にいた頃は結構いた。この町に来たばかりの頃は町人が興味を示したがすぐに飽きた。だから杖について声をかけられる事自体が久しぶりだった。
その後、俺はそいつと並んで椅子に座り、少し話をした。
男曰く、自分は魔術を生業としているものだが、奇妙な形状の杖につい心惹かれて声をかけてしまった。ここで会ったのも何かの縁だ。どうだろう、お互いに情報交換をしてみないか――云々。
フードを目深に被って顔を隠し、妙な模様の護符を身につけ、外だと言うのに分厚い本を抱えたその男は、見るからに怪しかった。聞けば彼は旅の途中であり、ここには一ヶ月ほど滞在するのだという。いわゆる流れ者だ。町の連中も警戒してあまり近寄ろうとしていなかった。
それにも関わらず俺が彼の提案を受け入れてしまったのは、当時の俺は半ばやけくそな精神状態だったから、というのが大きな理由だろう。どうにでもなれと思っていたし、話をするぐらいなら大丈夫だと高をくくってもいたのだった。
それで、あっさり油断した。
あいつの使う魔術はかなり風変わりで、様々な系統の術を「つぎはぎ」しつつ、異なる系統同士を混ぜた事による矛盾が極力発生しないよう、うまく調整していた。その調整自体があいつの研究テーマだったと言っても良い。精霊魔術とも黒魔術とも白魔術とも言いきれない不可思議な術で、それが俺には(今思うと全くもって悔しい話だが)羨ましくてならなかった。話を聞けば聞くほど、知れば知るほど気になって仕方なくなった。
「……何で複数の系統の術を混ぜても挙動がおかしくならないんだ?」
「そりゃあおかしくならないように組んでいるからさ」
「だから、どう組めばちゃんと動くようになるんだよ?」
「それは教えられないな。僕の研究の神髄だからね」
肝心な所はいつもそう言って笑ってはぐらかされた。
俺がロル先生から習った術も「使えるもんは使っちまえ」という乱雑極まる「ごちゃ混ぜ」だったが、ここまで徹底も洗練もされていなかった。だから少しでも参考にできないかと、その頃は二日に一度ぐらいの割合でそいつの家に通っていた。……まぁ、収穫は少なかったが。よく考えれば久々に無気力から抜け出せていた時期だったと思う。
あいつは自分の素性は一切話そうとしなかったが、自分の研究についてはとても雄弁だった。その話し方がうまいものだからつい何度も聞きに行ってしまう。そんなに年を取っているようには見えないのに、あいつは恐ろしく博識だった。
何度もあいつの下宿先に行くうちに、俺は勝手に「連帯感」みたいなものをあいつに対して感じていた。長いこと他の魔術師と会話する機会がなかったからかもしれない。それがまずかった。
初めて会話してから一ヶ月ほど経ったある日、あいつは突然こんな事を言い出した。
「面白いものが届いたんだ」
「面白いもの?」
おうむ返しに尋ねると、あいつはにんまり笑って手招きした。いつもは通されない奥の部屋に入れと言う。
「いいのかよ、こっちあんたの研究室だろ。いつも絶対入れねーじゃんか」
「今日は特別だよ。とびきりの研究材料が手に入ったんだが、どうも僕一人の手には余りそうでね」
「それって、手伝えってこと?」
「嫌ならいいんだけど」
「うんにゃ、嫌って訳じゃないが」
むしろ俺はちょっと嬉しかった。「とびきりの研究材料」なんて言うものだから否応無しにワクワクしちまってたし、どう考えても俺より格上の術者が「手に余る」と評するものを拝める機会が巡って来たことが楽しくて仕方なかった。
「それは良かった。じゃ、先に研究室に入っててくれないか。僕はちょっと準備がある」
「あいよ。こっちのドアだな」
研究室のドアを開けた。そっちの部屋は昼間だってのに真っ暗で、何も見えなかった。光に弱いものでも保管してあるんだろうかと思ったが、それにしたって暗過ぎた。
「おい『 』、何かすげー暗いぞ? 灯りは何処に――」
次の瞬間、布みたいなものが俺の口に押し当てられた。つんと薬品の匂いが鼻をついた。俺はとっさに腕を伸ばしてそれを振り払おうとしたが、体中が泥になったように重くてうまく動かなかった。
そのまますぐに意識も失って、気がついた時には巨大な転送用の魔法陣に寝かされていた。この島の招待状と一緒に。
「いつ思い出しても腹立つな。だまし討ちだぞ、だまし討ち」
『それにころっと引っ掛かった結果君はここにいるわけだけど?」
「う」
痛い所をロージャに突かれて思わず黙り込む。
そう、今俺がこの島にいるのは(あんまり認めたくないが)あいつが俺をこっちに飛ばしたからだ。そうでなければ俺がこの島に来る事はなかっただろう。
こっちに来てから俺は色んな経験をして、色んな人に会って、ハイダラ達とも会って、少しずつ変わる事が出来ていると思う。少なくとももうあの無気力な状態に戻る気はなかった。グラーシャの事にしても――もっと、他のやり方があるはずだ。あんな死んだような生活ではなくて、もっと前向きな方法で彼女の死を受け入れられるようになるはずだ。
この島に来てから、そう思えるようになった。
だからあいつは俺の恩人、なのかもしれないのだが。
「にしたって、記憶操作するこたねーよなぁ」
『え? どういう事?』
「……俺さ、あいつの顔も声も名前も覚えてないんだ。いくら何でも変だろ、あいつと話した内容とかこっちに飛ばされるまでの経緯とかははっきり覚えてんのにさ」
これだけ鮮明にあいつとのやり取りを思い出せるのに、顔や名前は相変わらず空白のままだった。記憶を弄られたとしか考えられない。
「お前は? 覚えてるか?」
『……い、いや。覚えてないな。言われてみれば変だね』
やっぱりだ。ロージャの記憶も改ざんされている。抜け目がない。
「あの野郎、何でそんな事しやがったんだろうな」
『君が戻って来た時に仕返しされるのが嫌だからじゃないか? だから忘れさせようとしたんじゃ』
「――いや、それ以前の問題が一つある」
ロージャの言葉を遮って続ける。
「あいつが何で俺をこっちに寄越したか、だ」
『何で、って……』
「あいつは俺に『向こうでの生活は君にとって決してマイナスではない』と言っていた。つまりこっちの事をある程度知ってたって事だ。それなら何で自分で来なかった? これだけ面白い場所だと知っていたなら、何で他人に代行させるなんてまどろっこしい真似をしたんだ?」
魔術師にとって、この島は格好の研究対象になりうる。わずかに残った記憶を信じるならあいつはかなり研究熱心な魔術師だった。なのに、研究対象を譲るような事をした。俺に何も言わず、強制的にだ。
あいつにはどうしても俺をこの島に飛ばさなくてはならない『理由』があったとでも言うのだろうか? 顔と名前を隠さなければならない理由も。
(――止めだ)
俺は頭を横に振った。考察するにも材料が少なすぎる。第一、俺は既にこの世界に飛ばされちまってる。異世界にいる奴の事ばかり考えたってどうしようもない。
俺に必要なのはこの世界から帰還する手段だ。
「今日はこの辺にしとこう、ロージャ。考えすぎてごちゃごちゃしてきた」
手帳を閉じて立ち上がる。杖が鉱石を瞬かせて答えたのを確認して、拠点への道を歩き始める。
だが――自分でやめると言っておきながら、しばらくの間、俺の頭には何かが引っ掛かったような不快感がつきまとって離れなかった。
……何が足りないっていうんだ?
『28歳の後半ぐらいじゃなかったかい』
「だよな。俺の誕生日が大体真冬だから……こっちに飛ばされたのは秋の終わり頃か」
『あの人と会ったのは更にその一ヶ月前になるね』
ロージャと会話しながら、俺は手帳に万年筆を走らせていた。思い出した事から順に書き足していく。数ヶ月前の事でも意外と思い出せるもんだな……。
俺達は元の世界に戻る方法を探すべく、原点に返って俺をこっちに飛ばした奴の事を思い出していく事にした。文章にすれば今まで見えていなかった事や考えていなかった事があぶり出されるかもしれない。当時からもう一緒にいたロージャの記憶も参考にしている。
「最初は確か、あいつから話しかけて来たんだったな」
『そうそう、僕が気になった、とか何とか言って。あの町の人間じゃなかったね』
「ああ。あそこは俺以外は一人しか魔術師がいなかったからな」
言いながら当時暮らしていた町の事を思い出す。
当時俺が住んでいたのは静かな水辺の町で、魔術師は俺を含めて二人しかいなかった。珍しいのかよく町民に頼み事をされた。大体は失せもの探しや畑を荒らす害獣退治、時々迷い込んでくる弱い魔物の撃退などだった。
何で俺の所に来たのかと言えば、冒険者ギルドに頼もうにもそこまで大きな話ではないし、第一まとまった金がない。だから手近にいるあまり偉くなさそうな魔術師に頼んでしまえ、というのが実情だったらしい(もう一人はえらい年寄りだったから、あまり何度も依頼は頼めなかったんだそうだ)。
流石にただ働きではなくて、謝礼として多少の金や食料品をくれた。ギルドの仕事の報酬に比べたらかなり少ないが、それでも一人で生活する分には困らなかった。苦しい時は知人の探索の手助けをしたり、簡単な護符を作って売ったりした。大抵それで事足りた。
贅沢をしたいとは思わなかったし欲しいものもなかった。本当に欲しかったものはもう消えちまっていて、ただ無気力だった。それなのに死ぬのは嫌だった。だからそれなりに働いた。今から思うと、当時の俺は物凄く後ろ向きだった。
あの男が俺の前に現れたのはそんな時だ。
俺はその時、ロージャを抱えて公園の椅子でぼんやりしていた。『たまには僕の事も散歩に連れてけ!』とか何とか喚くから仕方なく持って行く事になったのだ。
町の連中は俺がでかい杖を持ってるのは知ってるし、魔術師が変なものを持ち歩くのはよくある事だからさして気にしなかった。
だからそいつに話しかけられた時は少し驚いた。
「変わった杖を持っているね」
悪目立ちするロージャが気にかかって声をかけてくる奴ってのは、都会にいた頃は結構いた。この町に来たばかりの頃は町人が興味を示したがすぐに飽きた。だから杖について声をかけられる事自体が久しぶりだった。
その後、俺はそいつと並んで椅子に座り、少し話をした。
男曰く、自分は魔術を生業としているものだが、奇妙な形状の杖につい心惹かれて声をかけてしまった。ここで会ったのも何かの縁だ。どうだろう、お互いに情報交換をしてみないか――云々。
フードを目深に被って顔を隠し、妙な模様の護符を身につけ、外だと言うのに分厚い本を抱えたその男は、見るからに怪しかった。聞けば彼は旅の途中であり、ここには一ヶ月ほど滞在するのだという。いわゆる流れ者だ。町の連中も警戒してあまり近寄ろうとしていなかった。
それにも関わらず俺が彼の提案を受け入れてしまったのは、当時の俺は半ばやけくそな精神状態だったから、というのが大きな理由だろう。どうにでもなれと思っていたし、話をするぐらいなら大丈夫だと高をくくってもいたのだった。
それで、あっさり油断した。
あいつの使う魔術はかなり風変わりで、様々な系統の術を「つぎはぎ」しつつ、異なる系統同士を混ぜた事による矛盾が極力発生しないよう、うまく調整していた。その調整自体があいつの研究テーマだったと言っても良い。精霊魔術とも黒魔術とも白魔術とも言いきれない不可思議な術で、それが俺には(今思うと全くもって悔しい話だが)羨ましくてならなかった。話を聞けば聞くほど、知れば知るほど気になって仕方なくなった。
「……何で複数の系統の術を混ぜても挙動がおかしくならないんだ?」
「そりゃあおかしくならないように組んでいるからさ」
「だから、どう組めばちゃんと動くようになるんだよ?」
「それは教えられないな。僕の研究の神髄だからね」
肝心な所はいつもそう言って笑ってはぐらかされた。
俺がロル先生から習った術も「使えるもんは使っちまえ」という乱雑極まる「ごちゃ混ぜ」だったが、ここまで徹底も洗練もされていなかった。だから少しでも参考にできないかと、その頃は二日に一度ぐらいの割合でそいつの家に通っていた。……まぁ、収穫は少なかったが。よく考えれば久々に無気力から抜け出せていた時期だったと思う。
あいつは自分の素性は一切話そうとしなかったが、自分の研究についてはとても雄弁だった。その話し方がうまいものだからつい何度も聞きに行ってしまう。そんなに年を取っているようには見えないのに、あいつは恐ろしく博識だった。
何度もあいつの下宿先に行くうちに、俺は勝手に「連帯感」みたいなものをあいつに対して感じていた。長いこと他の魔術師と会話する機会がなかったからかもしれない。それがまずかった。
初めて会話してから一ヶ月ほど経ったある日、あいつは突然こんな事を言い出した。
「面白いものが届いたんだ」
「面白いもの?」
おうむ返しに尋ねると、あいつはにんまり笑って手招きした。いつもは通されない奥の部屋に入れと言う。
「いいのかよ、こっちあんたの研究室だろ。いつも絶対入れねーじゃんか」
「今日は特別だよ。とびきりの研究材料が手に入ったんだが、どうも僕一人の手には余りそうでね」
「それって、手伝えってこと?」
「嫌ならいいんだけど」
「うんにゃ、嫌って訳じゃないが」
むしろ俺はちょっと嬉しかった。「とびきりの研究材料」なんて言うものだから否応無しにワクワクしちまってたし、どう考えても俺より格上の術者が「手に余る」と評するものを拝める機会が巡って来たことが楽しくて仕方なかった。
「それは良かった。じゃ、先に研究室に入っててくれないか。僕はちょっと準備がある」
「あいよ。こっちのドアだな」
研究室のドアを開けた。そっちの部屋は昼間だってのに真っ暗で、何も見えなかった。光に弱いものでも保管してあるんだろうかと思ったが、それにしたって暗過ぎた。
「おい『 』、何かすげー暗いぞ? 灯りは何処に――」
次の瞬間、布みたいなものが俺の口に押し当てられた。つんと薬品の匂いが鼻をついた。俺はとっさに腕を伸ばしてそれを振り払おうとしたが、体中が泥になったように重くてうまく動かなかった。
そのまますぐに意識も失って、気がついた時には巨大な転送用の魔法陣に寝かされていた。この島の招待状と一緒に。
「いつ思い出しても腹立つな。だまし討ちだぞ、だまし討ち」
『それにころっと引っ掛かった結果君はここにいるわけだけど?」
「う」
痛い所をロージャに突かれて思わず黙り込む。
そう、今俺がこの島にいるのは(あんまり認めたくないが)あいつが俺をこっちに飛ばしたからだ。そうでなければ俺がこの島に来る事はなかっただろう。
こっちに来てから俺は色んな経験をして、色んな人に会って、ハイダラ達とも会って、少しずつ変わる事が出来ていると思う。少なくとももうあの無気力な状態に戻る気はなかった。グラーシャの事にしても――もっと、他のやり方があるはずだ。あんな死んだような生活ではなくて、もっと前向きな方法で彼女の死を受け入れられるようになるはずだ。
この島に来てから、そう思えるようになった。
だからあいつは俺の恩人、なのかもしれないのだが。
「にしたって、記憶操作するこたねーよなぁ」
『え? どういう事?』
「……俺さ、あいつの顔も声も名前も覚えてないんだ。いくら何でも変だろ、あいつと話した内容とかこっちに飛ばされるまでの経緯とかははっきり覚えてんのにさ」
これだけ鮮明にあいつとのやり取りを思い出せるのに、顔や名前は相変わらず空白のままだった。記憶を弄られたとしか考えられない。
「お前は? 覚えてるか?」
『……い、いや。覚えてないな。言われてみれば変だね』
やっぱりだ。ロージャの記憶も改ざんされている。抜け目がない。
「あの野郎、何でそんな事しやがったんだろうな」
『君が戻って来た時に仕返しされるのが嫌だからじゃないか? だから忘れさせようとしたんじゃ』
「――いや、それ以前の問題が一つある」
ロージャの言葉を遮って続ける。
「あいつが何で俺をこっちに寄越したか、だ」
『何で、って……』
「あいつは俺に『向こうでの生活は君にとって決してマイナスではない』と言っていた。つまりこっちの事をある程度知ってたって事だ。それなら何で自分で来なかった? これだけ面白い場所だと知っていたなら、何で他人に代行させるなんてまどろっこしい真似をしたんだ?」
魔術師にとって、この島は格好の研究対象になりうる。わずかに残った記憶を信じるならあいつはかなり研究熱心な魔術師だった。なのに、研究対象を譲るような事をした。俺に何も言わず、強制的にだ。
あいつにはどうしても俺をこの島に飛ばさなくてはならない『理由』があったとでも言うのだろうか? 顔と名前を隠さなければならない理由も。
(――止めだ)
俺は頭を横に振った。考察するにも材料が少なすぎる。第一、俺は既にこの世界に飛ばされちまってる。異世界にいる奴の事ばかり考えたってどうしようもない。
俺に必要なのはこの世界から帰還する手段だ。
「今日はこの辺にしとこう、ロージャ。考えすぎてごちゃごちゃしてきた」
手帳を閉じて立ち上がる。杖が鉱石を瞬かせて答えたのを確認して、拠点への道を歩き始める。
だが――自分でやめると言っておきながら、しばらくの間、俺の頭には何かが引っ掛かったような不快感がつきまとって離れなかった。
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