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False Islandのキャラブログ。日記ログとか絵とかネタとか色々。 キャラロールがぽんと飛び出ますので苦手な方はご注意を。



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「……落ち着いた?」

 遠慮がちにロージャが聞いて来た。
 俺と言えばようやく体を起こした所だった。苦笑いをしながら振り返る。

「悪ぃな、時間かかっちまって。次、お前の番だもんな」
「まぁ、いいんだけどね。君の事を話すんだし、君の都合に合わせるのが筋だろ」
「……ロージャ?」

 いつも以上に刺々しい態度のロージャに、ハイダラが怪訝そうに声をかける。
 ロージャは少し表情を曇らせてから、軽く首を横に振った。

「ごめん、怒ってる訳じゃないんだ。緊張してて。お茶でもいれようか。長話で疲れたろ。――僕が入れるからさ、カディム、手伝ってくれる?」
「畏まりました。只今御用意を」

 ロージャの手つきは割と手慣れていて(勿論隣でカディムが手伝ってくれているのだが)全員に紅茶が渡るまでそう時間はかからなかった。後でハイダラに聞いてみたが、どうやらカディムにこっそり教わっていたらしい。
 そして一段落ついた頃、ロージャはぐるりと俺達を見回した。

「それじゃあ、始めるね。本当は、レンジィが知っていれば良い話なのかもしれないけれど、ハイダラとカディムには聞いていてほしかったんだ。その我侭を最初に謝らせてほしい。……ごめんね」

 それから、大きく息をひとつ吸って、

「始まりは、グラーシャが死んだ事だった」

 そんな風にして、彼は話し始めた。

「彼女が死んで二年ぐらい経った頃、レンジィはそれなりに立ち直った。明るくなって、励ましてくれた人達に挨拶回りもしてた。でも、それが外側だけなのは僕には解ってた。一人になると、何もしないでじっとしてる事が、よくあったから」

 視界の端、ハイダラの手が膝に掛けた布を握りしめるのが見えた。少し申し訳なくなる。どうしても心配させてしまう。

「同じ頃、レンジィは田舎町に引っ越した。そこで細々と、生きるために最低限の生活だけをし始めた。それで僕は、このままじゃいけないと思った。僕は」

 そこでロージャの視線が俺に移った。言葉も俺に向けてのものに変わる。

「僕は君なんか大嫌いだけど、腐っていく君を見るのはもっと嫌だった。……だからロルが君の様子を見に来た時、彼女に相談したんだ」

 思い返してみれば、先生が来ている時のロージャはやたら静かだった。彼女が怖いからかと思っていたが、俺に念話を使うのと同じように、先生にしか聞こえない言葉を使ったのかもしれない。

「君には劇的な環境の変化が必要だと僕らは考えた。君は好奇心が強いから、新しい環境に放り込まれれば夢中になるだろうと思ったんだ。ただ、どうすればそれを与えられるのか分からなかった。そんな時、ロルの手元にこの島からの招待状が届いた」
「――!」

 息を呑んだ。
 どうにか絞り出した声が掠れる。

「……先生宛、だったのか?」
「ああ。それで僕らは思い付いたんだ。これを使おうと。未知のものに溢れているだろう場所で、宝探しをする。こんなわくわくする環境に、君が飛び付かないはずがないしね。……その時はこんな事になるなんて思ってなかった。危険は伴うだろうけれど、本当に危なくなったらロルが助ければ良いという程度の認識だったんだ。そして、実行した。僕らは君を騙して、ここに連れて来た」

 俺は目を閉じて、息を吐いた。
 正気に戻ってから色々考えて、ある程度予想はしていたが――実際に言われると、それなりに応えるものがあった。

「あいつは……俺をこっちに飛ばした野郎は、先生か?」
「ここまで言えば気がつくと思ったよ。その通りさ」

 ……顔も名前も思い出せない訳だ。最初から居なかったんだから。

「あいつの術は先生のとそっくりだったしな、あの時は気づかなかったけど……先生はあの姿に化けてたのか?」
「いや、君をここに飛ばす前に偽の記憶を上書きした。少しでも事実を知れば、直に全部思い出せると思う。もう、思い出し始めてるんじゃないか?」

 ロージャの言う通りで、俺のどこかに畳まれていた本当の記憶が一斉かつ無秩序に開き始めていた。ばらばらだった無数の場面が、時系列順に並んでいく。
 あの時、腐っていた俺を尋ねて町に滞在していたのも、面白いものがあるといって俺を呼んだのも、俺を招待状と一緒に魔法陣へ放り込んだのも、全部先生だった。
 ……頭が痛くなってきた。一度に色々思い出したからか、記憶の偽装が解けたからかは分からないが、とにかく酷い。
 だが俺は「これはまだ序の口だ」と分かっている。俺がここに来た経緯も大事だけれどもっと重要な事がある。何故なら。

「ロージャ」
「何?」
「俺を見つけた時に、お前はこの話をするつもりだったんだよな。……どうしてだ?」

 あの時の俺はグラーシャを生き返らせるという考えでいっぱいで、周りの言葉もろくに聞こえない状態だった。そんな俺を説得するのなら、俺をこちらに飛ばした経緯だけでは弱い。何らかの切り札があったはずだ。
 ロージャは少しだけためらってから、小さな声で話し始めた。

「この島の力で過去を変えられると仮定して、君がグラーシャの死を無かったことにした場合、二つ問題が発生する。ひとつは……グラーシャが生存していた場合、君は恐らくこの島に来なかった、という事」

 がつん、と頭を殴られたような気がした。

「どういう、意味だ」
「辛い仮定になると思う。でも、良く考えて。僕達はどうして君をこの島に飛ばしたんだった?」
「……俺を立ち直らせるためだろ?」
「そう。そして君の招待状は本来ロルのものだった。もしグラーシャが生きていた場合、僕達は君を立ち直らせる必要がなくなる。ここにはロルが来ただろう」
「な」
「レンジィ、あのまま無事に結婚していたら、君だってここに来れる状況じゃなかったはずだ。君がここに来たのは事故から約四年後で――結婚していたら、子供がいてもおかしくない時期だ」

 じく、と胸の辺りが痛む。ロージャの言う『仮定』は、あまり考えないようにしていた事だった。側に居た人を失った事、それを思い出すのと同じぐらい、生まれなかったものを想像するのは辛い。

「もしそうなら、グラーシャも子育てで大変だったろう。そんな時に君が家庭を置いてここに来るとは思えない。家族と一緒に来るのだって論外だ。大事な家族を危険な場所に連れていこうとは思わないだろ?」
「……ああ、そうだな。その通りだ」

 ロージャが何を言おうとしているのか、ようやく分かった。
 グラーシャが死んだからこそ、俺はここにいる。

 ほとんど無意識にカップに手を伸ばして、紅茶を口に含んだ。喉までせりあがってきた苦いものを、紅茶と一緒に飲み下す。
 落ち着いていなければ。少なくとも、今はまだ。

「もうひとつの問題ってのは、何だ」
「……もし君が過去を変えた場合、君はここに来なかった事になる。そうなった場合、君にどんな影響が出るか想像がつかなかった。ひょっとしたらこの島にいる君が『無かったこと』になって消滅してしまうかもしれない。或いは君だけが『グラーシャが生きている世界』に飛ばされて戻らない可能性もあった。……僕はどっちも嫌だった。消えるなんて論外だし、たとえ後者にしたって、君に、この島で過ごした事を無意味にして欲しくなかった。君が、この島で見た事、会った人全てを、好いている事が分かってたから」

 ……ああそうだよロージャ、お前の言う通りだ。
 ここにいて俺は凄く楽しかった。ハイダラ達とも出会えた。それを否定する気はない。
 だから余計に辛かったんだ。
 グラーシャが居ないのが、俺だけが生きていて、楽しい思いをしていたのが。
 それこそ、意味のない事だったのだけれど。

「本当は君が宝玉を取りにいこうとした時に話すべきだった。でも、言えなかった」

 喋りながら、ロージャが目を伏せた。金色の睫毛が震えている。

「君は、自分の感情に干渉されることを一番嫌う。それがグラーシャ絡みの感情なら尚更だ。僕達の行動は、君が抱えてきた悲しみを無理矢理打ち消す事に他ならない。だからこの事を知ったら、君は僕らを許さないだろうと思った。……あんなに威張ってた癖に、君に嫌われるのは怖かったんだ。それで、あんな事になってしまった」

 最後の方の言葉には、自嘲じみた苦笑いが混ざっていた。
 肩を竦めてそこまで言った彼は、

「これが真相。これで全部」

 そう言って、大きく息を吐き出した。

「ここに君を巻き込んでしまったのは、僕のせいだ。結局君を危険に晒す事になってしまった。――どう詫びれば良いか分からない。本当に、ごめんなさい」

 金色の頭が深く下げられた。ほとんど土下座に近い姿勢で、俺もさっきはあんなだったのかな、とぼんやり思う。
 あまり、気分の良い眺めじゃあない。
 だから俺はロージャに近づいて、その肩を掴んで無理矢理顔を上げさせた。

「……!?」

 状況が分からないのか、べそをかいた顔がきょとんとしてこっちを見ている。

「俺に向かって土下座なんかすんなよ、お前らしくもない」
「でも、僕は」
「腹が立ってねーっつったら嘘になるけど、許すとか許さねーとかいう話でもねーだろ?」

 手を離して、ロージャの正面に座り直す。それから、まだ呆然としている彼に向かって言う。

「最初の探索の原因は、確かにお前かもしれない。だけどそこから先は俺の意思だ。帰る方法を探すだけならこの島以外でも良かった。それでも俺がここに来たのは、ここでの生活が好きだったからだ。だから、今の状況をお前が気にする必要なんてない」

 何だか偉そうな言葉になってしまう。俺だってこんな口を叩ける立場じゃない。
 けれど、まずは伝えなければ。

「それに、この島に来なきゃ出会えたもんにも出会えなかった。ここで出会ったもんを無意味にしたくないのは俺も同じだ。だから――ここに連れて来てくれてありがとう、ロージャ。感謝してる」

 ロージャは少しの間、無表情のまま黙っていた。
 が、すぐにその両目から、ぶわ、と涙が溢れた。見てる方が驚くぐらいの量だった。

「っ!?」
「ロージャ!?」

 ハイダラが声をかけた途端、ロージャは顔を隠してそっぽを向いた。

「……ごめん。ちょっと、出てくるね。頭冷やしてくる」

 泣き声でそれだけ言って立ち上がると、彼はそのまま夜の樹々の間に走って行ってしまった。
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