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False Islandのキャラブログ。日記ログとか絵とかネタとか色々。 キャラロールがぽんと飛び出ますので苦手な方はご注意を。



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(今は過ぎ去った夏のひととき)
(そのどこか一場面)


目の前を悠々と横切っていく海賊船。白い帆が風を一杯に受けて広がり、青い
空にくっきりとその姿を際立たせながら通り過ぎていく。
桟橋で寛いでいた四人の男と一本の杖は、突然現れたその船をあっけにとられ
た様子で見上げていたが――その船に真っ先に反応したのは、癖の強い黒髪を
した魔術師だった。
海賊船には彼のよく見知った青年が乗っていて、彼は魔術師に向かって手を振
っていたからだ。
「おーいっ、レンジィ!」
青年は大声を上げているのだろうが、彼の乗っている船から魔術師がいる桟橋
まではかなり距離があった。だから桟橋に届く頃には、声は相当小さくなって
しまっている。
それでも魔術師は青年の声を聞いた。
「――ジーク!?」
驚いて呼び返すと、船の上の青年が笑いながらまた大きく手を振った。その後
ろには銀の尾をもつ獣人の青年と、赤いバンダナが目に鮮やかな海賊の青年が
いる。
三人を見て魔術師は咄嗟に思い至った。
彼らはこの島から出ていくのだ、と。
青年はなおも声を張り上げていた。
「レンジィ、ごめんな! これ――!」
最後の方は波音にかき消されてよく聞こえなかったが、青年が引っ張りだして
来たものを見て魔術師は目を丸くした。
それは小さな本だった。青年の手の平と同じぐらいのサイズで、魔術師の位置
から細部は見えない。だがそれが以前、魔術師が青年に貸した本である事は明
らかだった。魔法について詳しく知りたがった青年に、魔術師は小型の魔術書
を貸していたのだ。とはいえ、貸した魔術師自身でさえすっかり忘れてしまっ
ていたのだが。
波音の向こう、返し損ねちまってすまねぇ、という声が微かに届いて来る。
「――良いんだ!」
魔術師の唇が勝手に笑みの形を作った。
笑ったまま、波音に負けないように大声を張り上げる。
「俺は、俺は大丈夫だから――持ってっちまってくれ!」
辛うじて魔術師の声は青年に届いたらしい。彼が笑いながら頷くのが見えた。
船が次第に遠ざかる。
これから島を離れて外洋に向かうのだろう。その向こうに何があるのかは、他
の世界からやって来た魔術師には分からない。
分かるのは「これが彼らとの別れだ」という事だけだ。
言いたい事は沢山あったが、言える事はもう限られていた。
「テオの事、よろしく頼むぞ! あと、外行ったら体に気ぃつけろよ! あと
は――」
自分が生み出し彼の手に渡った水の魚の事、彼らの体調の心配。と、そこまで
言葉を投げていたのに、次がふっと途切れてしまう。
僅かな残り時間を前にして、魔術師は焦っていた。
言えるのはせいぜいあと一言だ。
だから魔術師は限界まで息を吸い込んで、一番大事な事を叫んだ。
「――またなっ!」
魔術師の言葉に応えるように青年が一際大きく手を振った。
そのやり取りを最後に、帆が受け止めた風に大きく後押しされて、船は大海原
へと旅立っていった。


船がすっかり遠ざかった後も、しばらく魔術師は船を見送っていた。
『……大丈夫かい?』
未だ海を見たままでいる主人に、杖が控えめに声をかける。
魔術師は振り返らずに頷いた。
「本当に暑いな、風はあるのにさ。汗が鬱陶しくてしょうがねーよ、全く」
乱暴に目元を拭ってからようやく振り返り、魔術師が笑う。
笑ってはいたがその垂れた目尻は、ほんの少しだけ赤くなっていた。





最早秋も過ぎて冬にさしかかっております。遅刻どころではありません。
前回のサマバケイラストに合わせて下さったジークさん(前期711)のサマバケ結果に対する短文でございます。
四ヶ月とか、もう、遅いにも程があるのですけれど……!

ジークさんは偽島本編で沢山レンジィとお話して下さっていて、その上サマバケでも反応して頂けてとても嬉しかったです。ありがとうございます! それなのにこちらからの反応がこんなに後になってしまって本当に申し訳ないです……。

レンジィにとっては、ジークさんとのこの一幕が偽島二期後で最初の別れだったろうと思います。オチがちょっと暗めなのはその影響だったり。

それでは、最後に改めまして。
随分と遅刻してしまいましたが、ジークさん、本当にありがとうございました!
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しかし…今でも、ついさっきのことのように蘇る…別れ。
うぉおおおああ…! 青年たちの夏の暑さが蘇ってきますよ!
こんばんは! こんなにも素敵なssを、本当にありがとうございました!

ジークで伝えたかった言葉を書き起こして頂いたり、
テオのことや、別れを思ってくれたレンジィさんの最後の描写にも
ぐっときました。
何より、夏の海の上での刹那の交錯に、「島」での思い出の数々が、
ぎゅっと詰められて、それは確かな形で、
二人の間のやりとりにして頂いたことに、感謝が溢れてやみません。
とても広大で恒久的な海洋の、
近い、しかし、波音に阻まれた、最後のすれ違い。
二つの対比に惹かれました。

元の世界へ戻っても、貰い受けた魔法書は大事に、
そして、魔法剣士として成長するべく礎として、共に歩んでいくと思います。
レンジィさん、こちらこそ、本当にありがとうございました!
とても嬉しい返文を頂きました!

そして、今期のレンジィさんも発見致しましたぜよ。
再び目を覚ます素敵な青なのでした。
こちらも、バジーリオ(973)として、登録しましたので、
またどこかでご縁がもてたらなあと願っている次第です。
それでは、重ねて、ありがとうございました!
Sieg(前期711)PL/Basil(973)PL URL 2009/11/13(Fri)23:05:01 Edit
波音が過ぎたあとに
こんばんは、またしてもお返事が遅れまして申し訳ない……!

大遅刻してしまったのにも関わらず温かいお言葉、ありがとうございます。そしてあらためまして、前期ではお世話になりました。
この場面は絵にするか文にするかかなり迷ったのですけれど、どうもモノローグが多くなりがちだったのでSSという形を取る事になりました。

テオ君と魔術書の事はメッセの中でも強く印象に残っているエピソードでした。テオ君はそちらとお知り合いになれたきっかけでしたし、魔術書は前期終了直前でお渡ししていたものでしたので、是非入れてみたいと思ったあたりからこのような場面になっていきました。彼らがレンジィの全く知らない外の世界を、ジークさんと一緒に歩んでいけるということがとても嬉しいです。
また「すれ違う船と会話する」というシチュエーションは夏と海が大好きな私にとって、書いていて非常に楽しいものでした。このニアミスを与えて下さったことにも心より感謝致します。本当にありがとうございました!

はい、今期もレンジィで続投です(笑)相変わらず青い奴です。
バジーリオさんも確認致しました! 猛獣使いさんなのですね。
こっそりこっそり結果を拝見させて頂こうと思っております。
ご縁があった時は、またよろしくお願いします。

それでは最後にもう一度。遊んで下さってありがとうございましたっ!
1301PL 2009/11/25(Wed)21:11:03 Edit
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