False Islandのキャラブログ。日記ログとか絵とかネタとか色々。
キャラロールがぽんと飛び出ますので苦手な方はご注意を。
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「あー、何とかこっちまで来れたなぁ」
『途中で猿に吹っ飛ばされたりしたけどね!』
「……もう猿は当分見たくねーや」
肩を落として溜息を吐くと、隣でロージャがけらけら笑った。
俺達は地下一階の西側、だだっ広い草原地帯にやって来ていた。この前までいた固い床とは違う、柔らかな感触が足の裏にある。それに少しだけ安心する。平原でも敵は日々強くなりつつあるが、少なくとも床の上よりマシだろう。
この先を更に西に行くともう馴染みになりつつある『ベルクレア騎士団』が待ち受けているらしい。レディボーンズとは違いこっちは二人組が兵士を率いているそうで、実質二人で戦闘している俺達とは人数の面で大きな戦力差があった。
だから今回は西には向かわない。ベルクレアの連中とやりあうのなら、もうちょっと体勢を整えてからの方が良いだろう。
そんな訳で、今は草原のど真ん中で一休みしている。ハイダラとカディムは俺達から少し離れたところに座っていた。と言うのは、俺達の方が「少しうろついてみる」と言って出てきたからだ。
『で、試したい事って?』
「気になる?」
『勿体ぶるなよ、自分で僕まで引っ張り出しといて』
「悪い悪い」
ロージャをなだめながら、俺は辺りを見回した。視界を遮る背の高い建物や樹木は見当たらない。ここならかなり遠くまで見渡せるはずだ。俺の「実験」には最適な場所だろう。
「『澪標』のな、実験をしたくてさ」
『実験、ねぇ。まだ分からないことでも?』
「分からないっつーか、何つーか――確かめたい事があるんだ」
『何を?』
「『波が見える範囲』、だな。まだちゃんと調べた事なかっただろ?」
『前の島』にいた時、俺は薬で底上げした魔力で澪標の出力を上げ、ハイダラから一時的に借りた『他の世界を覗く力』を使って親父に着いた『波』を感知し、どうにか彼との対面を果たした。
この時に知ったことはかなり多かったが、澪標に絞って言うならば「俺が異世界に行っても元の世界での『波』はくっついたまま」ということと「現時点では異世界の『波』を感知することはできない」ということだった。
ならば、今の俺はどこまで離れた『波』を感知できるのだろうか? その範囲をちゃんとした形で検証しておきたかったのだ。
でもさ、とロージャが口を挟んだ。
『君には僕以外全部同じ波に見えるんだろ? どうやって見分けるんだ?』
「……実はそうでもないんだなぁ、これが」
これは割と最近になって自覚したことだが、俺は自分が感知している波が「誰に」、或いは「どこに」着いた波なのか、何となく見分けがついているらしい。
ぼんやりとしか分からないものが多いが、俺と特に近いもの、親しい人などはすぐに分かる。ずっと一緒に行動しているハイダラやカディムがそうだ。
「だからここから一つ一つ波を見ていって、俺が感知できる一番遠い波の場所を覚えておけば、おおまかな感知区域を推定できるって訳だ」
『推定して、どうするつもり?』
「そうだな――場合によっちゃ、区域の拡張を考えねーとな。最終的には元の世界の波が感知できなきゃならねーんだから。あとは波の強弱の有無を確認して、強く感知できる波とそうでないものの比較か。俺に近いもの、親しいものほど強く感知できるんじゃねーかと踏んでるが、まだ仮説の段階だしさ」
『なるほどね』
ロージャを草地に突き立て、なるべく遠方へと目を向ける。今はぼんやり霞んだ山並みや森が見えるばかりだ。
「ひとまず、今から始めるよ。何かあったら言ってくれ」
『はいはい。ま、頑張ってね』
杖の言葉に苦笑いを返してから、俺は視界に意識を集中させた。
――ぱちん。
何かが嵌め込まれるような感覚がして、視界が急激に暗くなっていく。実際の明るさが変化しているのではなく、単に俺の『目』が変わっただけなのだが、未だに少しどきりとする。
やがて視界は真っ暗になり、風物の輪郭だけが淡く燐光を放つようになってからようやく、無数の光る波紋が浮かび上がってきた。
(すごいな)
目の前の光景に、思わず息を吐く。
と言うのも、俺が思っていた以上に多くの『波』が見えたからだ。帰る手がかりを探して周囲を見ているせいか、特に『場所』の波が多く残っているように思える。各地の魔方陣はもちろん、俺が「ちょっといいな」と思った場所にも残っているようだった(例えばこの前ハイダラと見に行った花咲く木だとか)。
五十個近いそれらの中で一番遠いのは、どうも一階の入口付近の魔法陣のものであるらしかった。遺跡外の波は感知できていない。今の俺が感知できる範囲はこの遺跡内で言えば一階層ぐらいか。
こんな事を判断する一方で、予想以上の数に増えた波を前にして俺が感じたのは、
(――これ、本当に標になるのか?)
と言うことだった。
多すぎる標は逆に混乱の元だ。進む道を示すための標であるはずなのに、こんなに狭い範囲で乱発してしまっている。果たして本当に標としての力があるのだろうか?
それとも「残留思念を残しやすい」という俺の体質が前提にあって「標を残す」という役割はその延長でしかないのだろうか?
(……やめよう、今はまだ判断できない)
詳しくは後回しにして、ひとまずその疑問について考えることをやめる。
それよりも、まだ検証していないことがあったはずだ。俺は気を取り直して辺りを見回した。波の強弱を調べるためだ。近くにあるものから強弱を見ていく。
場所についた波は大体、ぼんやりとしか感知できないようだ。例外は魔法陣で、そこだけ少しはっきり分かる。
そして場所よりもはっきりとしているのが人についた『波』だ。
(あっちに二つある強い波はハイダラとカディムか。俺の真横にあるのはロージャだから考えない事にして、……あれ?)
左側を見た視界の隅、一際強い『波』が目に入った。その波を感知した途端、それまで考えていた諸々の思考が全て途絶えてしまった。
それは明らかに人についた『波』だった。けれど、そこには誰もいない。この経験は前にもあった。随分以前、前の島にいた時だった。あの時の俺にはこの波の気配が何なのか分からなかった。いや、分からない振りをしていた。
だが今ならはっきりと分かってしまう。この気配を俺は知っている。かつて、いいや今だって、恐ろしいほどに心を囚われている。
『レンジィ、』
「分かってる。全部言うな」
何か言いかけたロージャの言葉を遮って、俺は勝手に喋っていた。
「『あれ』については後で、ちゃんと考える。だから今は何も」
『何訳の分からないこと言ってるんだ馬鹿!』
ばちん、とロージャから軽く魔力が放たれて、俺はようやく我に帰る。一瞬で『澪標』が消え失せ、それと同時に、ずずん、という重々しい足音が聞こえてきた。恐らく足音自体はずっと前から鳴ってたんだろう。俺が気がついていなかっただけで。
『まだ遠いけど、かなりでっかいのが来てるぞ! 早くハイダラのところに戻れ!』
「――悪い!」
ロージャに大声で答えながら走り出す。迫る敵の気配に追い立てられて、と言うよりはさっき見てしまったものへの衝撃のせいで。
忘れるものか。
あの日以来、一度だって、俺は――
『途中で猿に吹っ飛ばされたりしたけどね!』
「……もう猿は当分見たくねーや」
肩を落として溜息を吐くと、隣でロージャがけらけら笑った。
俺達は地下一階の西側、だだっ広い草原地帯にやって来ていた。この前までいた固い床とは違う、柔らかな感触が足の裏にある。それに少しだけ安心する。平原でも敵は日々強くなりつつあるが、少なくとも床の上よりマシだろう。
この先を更に西に行くともう馴染みになりつつある『ベルクレア騎士団』が待ち受けているらしい。レディボーンズとは違いこっちは二人組が兵士を率いているそうで、実質二人で戦闘している俺達とは人数の面で大きな戦力差があった。
だから今回は西には向かわない。ベルクレアの連中とやりあうのなら、もうちょっと体勢を整えてからの方が良いだろう。
そんな訳で、今は草原のど真ん中で一休みしている。ハイダラとカディムは俺達から少し離れたところに座っていた。と言うのは、俺達の方が「少しうろついてみる」と言って出てきたからだ。
『で、試したい事って?』
「気になる?」
『勿体ぶるなよ、自分で僕まで引っ張り出しといて』
「悪い悪い」
ロージャをなだめながら、俺は辺りを見回した。視界を遮る背の高い建物や樹木は見当たらない。ここならかなり遠くまで見渡せるはずだ。俺の「実験」には最適な場所だろう。
「『澪標』のな、実験をしたくてさ」
『実験、ねぇ。まだ分からないことでも?』
「分からないっつーか、何つーか――確かめたい事があるんだ」
『何を?』
「『波が見える範囲』、だな。まだちゃんと調べた事なかっただろ?」
『前の島』にいた時、俺は薬で底上げした魔力で澪標の出力を上げ、ハイダラから一時的に借りた『他の世界を覗く力』を使って親父に着いた『波』を感知し、どうにか彼との対面を果たした。
この時に知ったことはかなり多かったが、澪標に絞って言うならば「俺が異世界に行っても元の世界での『波』はくっついたまま」ということと「現時点では異世界の『波』を感知することはできない」ということだった。
ならば、今の俺はどこまで離れた『波』を感知できるのだろうか? その範囲をちゃんとした形で検証しておきたかったのだ。
でもさ、とロージャが口を挟んだ。
『君には僕以外全部同じ波に見えるんだろ? どうやって見分けるんだ?』
「……実はそうでもないんだなぁ、これが」
これは割と最近になって自覚したことだが、俺は自分が感知している波が「誰に」、或いは「どこに」着いた波なのか、何となく見分けがついているらしい。
ぼんやりとしか分からないものが多いが、俺と特に近いもの、親しい人などはすぐに分かる。ずっと一緒に行動しているハイダラやカディムがそうだ。
「だからここから一つ一つ波を見ていって、俺が感知できる一番遠い波の場所を覚えておけば、おおまかな感知区域を推定できるって訳だ」
『推定して、どうするつもり?』
「そうだな――場合によっちゃ、区域の拡張を考えねーとな。最終的には元の世界の波が感知できなきゃならねーんだから。あとは波の強弱の有無を確認して、強く感知できる波とそうでないものの比較か。俺に近いもの、親しいものほど強く感知できるんじゃねーかと踏んでるが、まだ仮説の段階だしさ」
『なるほどね』
ロージャを草地に突き立て、なるべく遠方へと目を向ける。今はぼんやり霞んだ山並みや森が見えるばかりだ。
「ひとまず、今から始めるよ。何かあったら言ってくれ」
『はいはい。ま、頑張ってね』
杖の言葉に苦笑いを返してから、俺は視界に意識を集中させた。
――ぱちん。
何かが嵌め込まれるような感覚がして、視界が急激に暗くなっていく。実際の明るさが変化しているのではなく、単に俺の『目』が変わっただけなのだが、未だに少しどきりとする。
やがて視界は真っ暗になり、風物の輪郭だけが淡く燐光を放つようになってからようやく、無数の光る波紋が浮かび上がってきた。
(すごいな)
目の前の光景に、思わず息を吐く。
と言うのも、俺が思っていた以上に多くの『波』が見えたからだ。帰る手がかりを探して周囲を見ているせいか、特に『場所』の波が多く残っているように思える。各地の魔方陣はもちろん、俺が「ちょっといいな」と思った場所にも残っているようだった(例えばこの前ハイダラと見に行った花咲く木だとか)。
五十個近いそれらの中で一番遠いのは、どうも一階の入口付近の魔法陣のものであるらしかった。遺跡外の波は感知できていない。今の俺が感知できる範囲はこの遺跡内で言えば一階層ぐらいか。
こんな事を判断する一方で、予想以上の数に増えた波を前にして俺が感じたのは、
(――これ、本当に標になるのか?)
と言うことだった。
多すぎる標は逆に混乱の元だ。進む道を示すための標であるはずなのに、こんなに狭い範囲で乱発してしまっている。果たして本当に標としての力があるのだろうか?
それとも「残留思念を残しやすい」という俺の体質が前提にあって「標を残す」という役割はその延長でしかないのだろうか?
(……やめよう、今はまだ判断できない)
詳しくは後回しにして、ひとまずその疑問について考えることをやめる。
それよりも、まだ検証していないことがあったはずだ。俺は気を取り直して辺りを見回した。波の強弱を調べるためだ。近くにあるものから強弱を見ていく。
場所についた波は大体、ぼんやりとしか感知できないようだ。例外は魔法陣で、そこだけ少しはっきり分かる。
そして場所よりもはっきりとしているのが人についた『波』だ。
(あっちに二つある強い波はハイダラとカディムか。俺の真横にあるのはロージャだから考えない事にして、……あれ?)
左側を見た視界の隅、一際強い『波』が目に入った。その波を感知した途端、それまで考えていた諸々の思考が全て途絶えてしまった。
それは明らかに人についた『波』だった。けれど、そこには誰もいない。この経験は前にもあった。随分以前、前の島にいた時だった。あの時の俺にはこの波の気配が何なのか分からなかった。いや、分からない振りをしていた。
だが今ならはっきりと分かってしまう。この気配を俺は知っている。かつて、いいや今だって、恐ろしいほどに心を囚われている。
『レンジィ、』
「分かってる。全部言うな」
何か言いかけたロージャの言葉を遮って、俺は勝手に喋っていた。
「『あれ』については後で、ちゃんと考える。だから今は何も」
『何訳の分からないこと言ってるんだ馬鹿!』
ばちん、とロージャから軽く魔力が放たれて、俺はようやく我に帰る。一瞬で『澪標』が消え失せ、それと同時に、ずずん、という重々しい足音が聞こえてきた。恐らく足音自体はずっと前から鳴ってたんだろう。俺が気がついていなかっただけで。
『まだ遠いけど、かなりでっかいのが来てるぞ! 早くハイダラのところに戻れ!』
「――悪い!」
ロージャに大声で答えながら走り出す。迫る敵の気配に追い立てられて、と言うよりはさっき見てしまったものへの衝撃のせいで。
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