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False Islandのキャラブログ。日記ログとか絵とかネタとか色々。 キャラロールがぽんと飛び出ますので苦手な方はご注意を。



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 ベルクレア騎士団を撃退した先の砂地で、宝玉は噂通りまとまって埋まっていた。大人しく光っているそれらには、今のところ妙な気配はない。
 レンジィは宝玉を一つ(火の宝玉だ)拾い上げて、ぼそりと呟いた。

「やっと、か」

 僕の位置からは彼の表情を伺い知る事ができなかったけれど、それは彼らしくもなく抑揚のない声で、僕はいやに不安になった。


 その晩、僕らはハイダラ達の「木陰」で野営をした。何処からでも行けるし便利な場所だけれど、今回木陰を野営地点に選んだのはロルが希望したからだ。レンジィは「先生も相当気に入ったんですね」なんて笑っていたけれど、それだけではないのは彼以外の全員が知っている。
 此処の主であるハイダラとカディムは、木陰へ誰がどう出入りしたか、目で見なくても感覚で分かるらしい。それを聞いたロルは事前に「宝玉を取った晩は木陰で野営をしてくれ」と二人に頼み込んでいた。もしレンジィが妙な真似をしても、木陰なら彼の挙動を察知できると考えたからだ。
 宝玉を手に入れた事で、場の雰囲気は何となく堅かった。もちろんカディムの作る料理やその配膳に抜かりはないし、ハイダラもいつも通りクッションに寝そべって寛いでいるように見える。  そうでないのはロルで、不機嫌そうに果物を齧っていた。それが不安のせいなのは僕にも分かる。彼女は、魔法はずば抜けているが嘘をつくのは下手だ。
 それで、レンジィと言えば。

「本当ありがとうな、此処まで付き合ってもらってさ」

 にこにこ笑いながら夕食のスープを啜っていた。上機嫌で、声も明るい。昼間とは大違いで、だからこそ僕は違和感を感じる。ちょっと異常なぐらいの明るさだ。笑うと子供じみて見える顔が今はお面みたいに見える。
 ハイダラが体勢を変えてレンジィの方に向き直った。少し笑って、首を横に振る。

「いいよ、気にしないで。宝玉も無事、手に入ったしね」
「だな。あーよかった。なんだかんだで数が多かったから、緊張しちまって」

 糸が切れちまって何か変な感じ、とレンジィが付け足す。……本当にそうだろうか? あまり黙っているとおかしく思われるかもしれない。僕は茶々を入れてやることにした。

『本当だよ、戦闘前にガキみたいに落ち着きなくなっちゃって』
「お前なぁ。あいつらに色々聞こうかなーとか何とか、あれこれ考えてたんだからしょうがねーだろ。……まぁ、何にも聞けなかったんだけどさ」

 彼はギルとシズクの時のように、サザンクロスにも何か聞くつもりだったらしい。ただ、盛大に吐血をして倒れた彼はその後目を覚まさなかった。気絶しているようだったけれど、当然、話が聞ける状態ではない。
 レンジィはやれやれと言った様子で背伸びをすると、欠伸をして立ち上がった。

「んー、腹も膨れたし、ちっと出かけてくっかね」
「どこに行く気だ」

 すかさずロルが釘を刺す。するとレンジィは大袈裟に肩を竦めて答えた。

「やだな先生、皆まで言わせないで下さいよ。夕飯時なのに。……用足しですよ、すぐに帰ります」

 おどけて言う彼に、ロルは大きく溜息を吐いた。「さっさと行ってこんか馬鹿者」と呆れた声で言って額を押さえる。すみません、と軽い声で言ってレンジィは姿を消した。

「全く、ああも開き直られると食って掛かるのも難しいな」
『大丈夫なの? 行かせちゃって』
「ただで行かせる訳がなかろう。奴の気配は常に探っているし、此処から出ようとすればハイダラ達が気付く。何かあれば、すぐに飛んで追いかける」

 僕らの心配とは裏腹に、レンジィは数分であっさり帰って来た。帰ってからは大声で笑い、あぐらをかいて果物を齧り、下らない話をしてまた笑った。どこからどう見ても、いつも通りだった。

「――!」

 ハイダラが何かに反応して空を見上げたのは、彼が帰って来て少ししてからだ。
 酷く驚いた顔で上を見ていたハイダラは、それから隣にいるレンジィを見た。信じられない、という顔だった。カディムの様子を見ると彼もまた、顔を強張らせている。
 一方でレンジィは訳が分からないらしく、暢気な声でハイダラに問いかけた。

「ん? どうした?」
「誰だ」

 詰問するハイダラに、レンジィが首を傾げる。

「何だよ急に、俺は俺だぞ?」
「違う。今、レンが外に出た気配がした。此処に彼がいるはずがない。――お前は誰だ。レンをどうした」
「……くそっ!」

 何が起きたのかロルはすぐに察知したらしい。忌々しげに叫ぶと一瞬で飛び立った。続けて立ち上がろうとするハイダラの腕を、素早く偽レンジィが掴んだ。自分の隣に引き寄せて、無理矢理座らせる。
 普段の彼なら、ハイダラに対してこんな乱暴な真似はしない。しかも彼はまた笑っている。
 おかしいと僕が思った途端、レンジィの腕から先が溶けた。一瞬不定形になってから、掴んだハイダラの腕ごと凍りつく。よく見るとその腰から下も氷に変わっていて、やはりハイダラの足を巻き込んで凍っている。

「……!」
「壊してもいいけれど」

 凍った手足に力を込めたハイダラに、レンジィが薄笑いで言った。

「この氷を壊すと本当の俺も怪我をする、と言ったら、どうする?」

 ハイダラの顔が強張ったのが僕からも見えた。そう言われて試せるはずがない。本当かどうかは壊すまで分からないし、もし本当であればどの程度影響が出るのかも分からない。

『いい加減にしろ! 自分を盾にするような真似なんかして』
「黙ってろ、ロージャ」

 冷たい声でレンジィが僕の言葉を遮る。それでもなお、顔は笑顔のままだ。

「――カディム!」

 ハイダラが振り返り様に、カディムに向かって命じた。

「追え、早く!」

 けれど、カディムは側に控える姿勢のまま、動こうとしなかった。
 ただ、押し殺した声で一言、

「お赦しを……!」

 とだけ言って、深く頭を下げた。
 僕が知る限りでは、カディムは滅多にハイダラの側を離れない。それは主人の世話をするためというだけではなく、側についてハイダラを守るのも重要な役目の一つだからだろう。
 そんな彼が、主が手足を凍らされているという異常な状況で、ハイダラを置いていける訳がない。
 ……もしかしてあいつ、ここまで考えてたのか?
 偽レンジィはハイダラとカディムが動けないのを確認してから、静かに口を開いた。

「いきなり手荒な真似しちまって悪いな。少しだけ、此処にいて欲しいんだ」
「……どういう意味?」
「先生はこの島の理にない。俺はそこから逸脱しかけてるけど、先生が干渉できるほどじゃないはずだ。でも、あんたはこの島の参加者だ。あんたならまだ俺に干渉できる。追いつかれちまう」

 レンジィの体からは凍った白い空気が滲み始めていた。媒介は、……水と氷、なんだろうか。

「卑怯だけどこうするしかなかった。あんたも先生も勘がいいからさ。ミラージュで作る像を氷と水で実体化して、澪標を乗せてみた。澪標は俺の気配だ。生物は意識があるから、残留思念しか乗せられないけど……幻なら俺の行動や思考の癖も乗せられる。長続きはしないが、時間稼ぎには充分だ。少しずつ、先生にバレないよう準備してた」

 俺の力ってこんな使い方も出来たみたい、と、嬉しそうに笑う。
 彼は分身を幻術で作ってこっちに寄越し、僕らが油断したのを見計らって逃げたらしい。木陰を出ればハイダラ達が気付く事を知っていたから、囮にした偽者にこうして時間稼ぎをさせている。ロルがこの術を見過ごしたのは以前から準備されていたせいもあるだろうが、それが彼女に馴染みのないこの島の術を下敷きにしていた事も大きいだろう。
 だが、此処では戦闘以外で技を使えない。それが決まりだ。それなのに使えるだけでなく改変もしているとなると——本体のレンジィは、相当良くない状況にあるらしい。
 僕はこの時ほど、追いかけられない杖の身が恨めしいと感じた事はなかった。
 たとえ杖から抜け出して意識だけで追いかけたとしても、何が出来る?

「こんな周りくどい真似をしたのは、あんたには挨拶がしたかったからだ。なぁハイダラ、俺、やっと何が怖いのか分かったんだよ」

 相変わらずにこにこ笑いながら、レンジィの幻が言う。
 僕らが口を挟む暇もなく、彼が一息に喋る。

「人の意識って面倒なもんでさ、何かに一度気がついたら忘れられないし、疑い始めたらきりが無い。それと同じさ。気がついちまったら、一度でも『出来るかもしれない』と思っちまったら、俺はそれを忘れられない。だから俺は、あの人の死をなかった事にしたい。怖いから」

 畳み掛けるように話してから、レンジィは一度息を切って、すぐに続けた。

「俺はあの人を死なせておきながら、のうのうと生きている俺自身が怖い。あの人の不在に慣れそうになっているのが怖い。一度でも『乗り越えられるかもしれない』と思い込んで、あの人を忘れそうになっているのが怖い」

 何か叫びたかったが、僕には出来なかった。レンジィが怖くて声が出なかった。
 何故なら、恐怖について語りながらも彼の顔はずっと笑顔だったからだ。見開き気味になった青い両目、その色がみるみる褪せて本来の色である橙黄色になる。狂気じみたものを感じて、僕は何も言えなくなった。
 だから、叫んだのはハイダラだった。

「違う!! 君は一度だって、彼女を忘れた事はないはずだ。忘れるはずがない。君は、彼女を忘れたくなかったのだから。その髪飾りだってそうだ。君はそれをずっと持っていた」
「……ありがとう」

 そこで初めて、彼の顔から笑顔が消えた。

「あんたがそうやって支えてくれていたから、俺は今まで此処に居れたんだ。だけど、ここからはもう甘えるわけにはいかない」

 橙黄色の目が遠くを見るように、ハイダラを見ている。

「――俺はまた貰ってばかりだったな。あなたには何度も救われたのに、また何も報えないまま裏切ろうとしている。彼女の時と同じさ。笑ってくれ、過去を忘れられないし忘れたくもないのに、俺はそこから何も学べないんだ」

 二人称を意図的に変えている。妙に改まった口調。直感的に「まずい」と感じた。だってそうだろう、これじゃまるで

「今はもう、彼女しか頭にない。けれどあなたも俺にとってはものすごく大切だから、だからここからは一人で行く」
「レン、」
「……ごめん、ハイダラ」

 泣き笑いの顔を作ったのと同時に、彼の姿は氷塊と化していた。その次の瞬間には、無数の氷の欠片になって崩れ落ちた。
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