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False Islandのキャラブログ。日記ログとか絵とかネタとか色々。 キャラロールがぽんと飛び出ますので苦手な方はご注意を。



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「嫌」

 そう言い放つハイダラに、困り果てた様子でカディムが食い下がった。

「嫌ではありません、ハイダラ様、聞き分けのない」
「いーやー。もうちょっと触っている」

 先生がこっちに来てからというもの、どうも彼はえらく先生の羽を気に入ってしまった様子で、今も暗い赤と薄茶の翼を撫でている。
 一方カディムは(態度にこそ出さないが)かなり困惑している。正直に言うと、どちらも凄く面白い。

「もうちょっとでもありません、ハイダラ様。ご迷惑でございますよ。第一、触っている、とは何というお言葉でございましょうか。誠に申し訳ありません、ロル様」
「いーや! ねえ、ロルはいいだろう? レンとロージャが行ってくれるなら問題ないし、ロルも何か見て回りたいのなら、後から私が一緒に行くもの。夜市だってある」

 ハイダラの粘りように俺は思わず吹き出した。口元を押さえて先生の方を見る。

「……っ、せ、先生、気に入られましたねえ」
「ふむ、私は別に構わんよ。特に買いたいものもなし、黄昏時に羽根をもふもふと触られるのも一興だ。レンジィ、分かっているだろうが、美味いものを買ってこいよ」

 慌てるカディムや吹き出している俺とは対照的に、先生は至って普段通りだ。美味いものを、のくだりでは俺ににやにや笑いかけるぐらいだ。
 そこで俺はこれから市に出かける予定だった事を今更思い出した。ハイダラがもふもふに興じている時に俺が「先生も市に行きます?」なんて声をかけたもんだから、さっきのやり取りに繋がったのだ。
 俺は苦笑いしながら肩を竦めた。

「勿論ですよ。じゃあ、ロージャ、行くか。カディム、悪いけど、留守番とお世話、頼むよ」
「レン、私も留守番だよ? それとお世話って何」
「そうだぞ馬鹿弟子、私も抜かしているではないか」

 白い頭と紅色の頭がそれぞれ不満そうに声を上げる。……何かこの配色、見てると凄くおめでたい絵面な気がしてくるな……。

「いやいや、全然深い意味はありませんって」
『ふふ、ハイダラは留守番って感じしないなあ。まあいいや、行ってくるね』

 そんな二人をどうにかなだめすかして(そしてまだ困惑し続けているカディムにちょっとだけ目配せをして)俺とロージャは市場に向かった。





「……さて、ロル。あなたはどう見ている?」

 私の翼を撫でていた白い男が、不意にそんなことを言った。先程までの子供じみた振る舞いが嘘のような落ち着いた声色だ。レンジィ達が離れるのを見計らって発言したらしい。
 長い時を生きる種には、こうした傾向を持つ者がいる。外見に由来する若い部分と、今までの生涯に裏打ちされ老成した部分。元来の性格が無邪気ならば尚更際立つ。

「……それは、レンジィの事か?」

 ハイダラは黙って頷く。私はそれを確認して言葉を続けた。

「質問を返すようで悪いが、先にあなたの意見が聞きたい。こちらに来てからの奴に関してはあなたの方が詳しいだろう?」

 私はまだ数日しかレンジィを見ていないし、私がこちらに来た時、奴はもう異常を来していた。それならば奴と共に探索を行ってきた彼に話を聞いた方が早い。
 私の言葉にハイダラは少し考え込んでから、ぽつりぽつりと話し始めた。

「私は……、私達のような生き物と、レンは違うから、はっきりとした事は分からないが……多分、とても良くない状態だと思う」
「良くない、とは?」
「自分の力を制御出来ないというのは、一番危ない。何より、外からの影響に対処しきれなくなるのが恐い。わけの分からない力に満ちている、このような島では、特に」

 そこまで話してから、彼は険しい顔で周囲を見回した。

「……マナと言ったか、この、臭い力。気を抜くと、すぐに我らを侵食しようとする。使いこなせているうちはいい。役に立つうちもいい。しかし、無闇に使えば……」

 その用語については、ロージャから既に聞いている。島に満ち、訪れた者に仮初めの力を与える何か。微量ではあるが空気にも含まれているため島にいるだけで何らかの影響を受ける。
 濃度の高い物が個体や液体として存在していた例もあり、それらを摂取すると顕著に影響が出るらしい。

「なるほどな、この島の何とも言えない嘘臭さの原因はそれか。ここに働いている『仕組み』とも密接な関係にあるようだ。……無闇に使うと、どうなる?」

 彼が言いかけた言葉の先を促す。
 ハイダラは少し間を置いてから、声を潜めて続けた。

「あなたは知っているか、マナで狂うという話を」

 やはり、という気分になる。
 マナについてロージャは「力にはなるがろくでもないもの」としか言っていなかったが実際にマナが与えている影響や恩恵の度合いを考えると、それ相応(或いはそれ以上)の反動が存在する事は予想できた。

「直接聞いてはいないがね、そんな事だろうと思ったさ。力には大抵何かしらの反動が伴うものだ。強制的に摂取せざるを得ない状況にあるというのは気に食わんがな。……ここで敵として現れる連中は、皆そうか?」

 私のこの質問に対しては、ハイダラはやや考えてから首を横に振った。

「この島の敵には、マナに囚われつつもそれほど変わりなく存在するものと、マナで狂いつつあるものとの、2種類がいるように思う。その境が何にあるのか、私には分からないが……」
「個体差があるのかもしれんな。それか、他に条件があるのか」

 体質か精神状態か体調か。その全てが当てはまりそうな気がして特定出来ない。つい最近まで平気だった者が突然マナに浸食されると言う事も十分あり得る。
 そこまで考えて、一つ嫌な事に気がついた。
 私の馬鹿弟子は今まさにその経過を辿っている。だが、それはまだ考えないでおこう。ハイダラの話を聞くのが先だ。

「多分、私なら『狂う方』に選り分けられるだろうな、というのは分かる。カディムもね。……だから、このマナという力は信用出来ない。界を越えてこの島を覗いただけのものにさえ、このマナの臭いは伝わった。それは私に「気をつけろ」と注意を寄越した。私の養い親だ」
「ああ、翼があると言っていたな。その羽で異界との境まで越えられるのか……しかし、別の世界から見てもここが異質だとすると、ますます警戒せねばならない状況にあるようだな」

 心無しか背筋が伸びる。そろそろ、私の事を話すべきだろう。

「意見を聞かせてくれてありがとう、ハイダラ。私もあなたと概ね同じ考えだ。私の弟子が非常に厄介な状況にある事は間違いない。私は、自分の力の制御がまともに出来る程度には、奴を鍛えてやったつもりだしな」
「やはり、そうだよね……。心配だ。ああ、レンがあれほど制御を乱すとは、私も驚いた。彼は系統を取り混ぜた面白い術の使い方をするのに、それでいて制御が上手かった。いや、そういう使い方だからこそ上手くないといけないとも言えるが。……あなたの教えが良いのだろう」

 不意に褒められて、年甲斐もなく照れる。教える側だった私が不用意にあれこれ手を出していたからなのだが、ここは素直に喜んだ。礼代わりに軽く手を振って、本題に戻る。

「それがここ最近になって出来なくなっているのは、奴が別の何かに気を取られているからだろう。――ロージャから聞いたが、この島にある宝玉を使うと『過去を操れる』という噂があるそうだな?」
「……あれか。まあ、確かに。先日いやな噂を、とある敵から面と向かって聞かされたよ」

 そう語るハイダラの顔は険しく、その際何か起こったのだろうと推測できた。

「レンジィはある人間の死をなかった事にしたいと考えている」
「……グラーシャだね」

 私は黙って頷く。彼がそこまで知っているのなら話は早い。

「恐らく近いうちに宝玉を取りに行きたいと言い出すだろう。どうやら何か思うところが あって、今まで我慢をしていたらしいが……自制が利かなくなってに術にまで影響が出ている節がある」

 奴は大抵、周囲に迷惑をかけない範囲で事を進めようとする。だが今回ばかりは、そうも言ってられなくなったのだろう。

「そして不安定な精神は隙が多い。レンジィは今まで以上にマナの影響を受けやすくなっているだろう。今後どんな変調を来すか予想がつかん。宝玉を手に入れたりすれば尚更だ」
「……ふむ。不安定な部分につけ込まれた感があるな。それこそが、マナというものの恐 ろしさか。マナによって行動や考え方のたがが外れ、それによって、よりマナに影響される方へ行ってしまう。悪循環だ」
「ああ。……だが、私はこの島では部外者だ。奴の行動を完全に制御する事は出来ん」

 結局のところ、この島の『決まり』にそって行動しているのはレンジィだけなのだ。
 だから。

「だから、もしもレンジィが宝玉を手に入れた場合、私はある事実を奴に話そうと思う」
「ある事実?」
「奴が何故こちらの島に来たのか、あなたは聞いた事があるか? ……私は、そのきっかけとなった存在と密接な関係にある。奴がどうしてここに送られたのかも知っているし、何故奴が過去を変えてはならないのかも知っている」

 奴は恐らく、この島に来た時の出来事を本来とは違う形で記憶しているはずだ。今は偽の記憶しかないが、真相を話せばすぐに思い出すだろう。

「それを話せば何とか、説得出来るかもしれない。しかし奴は確実に私を恨むだろう」

 しかし、それは恐らく相当の衝撃をレンジィに与える。
 衝撃を受けた奴が私に対して取りうる感情で一番近いものは、恐らく恨みだ。

「そうなった時は――勿論あなたが良ければだが、レンジィを頼みたい。弟子の面倒も見きれないとは情けないにも程があるが……奴が今一番信用しているのはあなただろうから」

 私の言葉に、ハイダラが僅かに表情を変えた。琥珀色の目が細められ、じっと私を見る。
 沈黙の後、彼は静かに話し始めた。

「……頼まれるまでもない。私は、レンが大好きだ。そしてレンの味方だ。……しかし、レンは、あなたの事も信頼しているし、尊敬しているだろう? それでも、私なのか?」

 彼は言葉とはまた別の事を同時に問うていた。事の真相があいつに与える影響の度合いについての疑問と確認と危機感だ。
 奴は温厚な一方恐ろしく頑固で、グラーシャについての諸々は特にそうだった。かつての私の行動は、奴が固執していたものを無理矢理引きはがそうとした事に他ならない。そしてそれは最もレンジィが嫌う事の一つだ。だから、私では駄目なのだ。
 私は黙って頷いた。
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