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False Islandのキャラブログ。日記ログとか絵とかネタとか色々。 キャラロールがぽんと飛び出ますので苦手な方はご注意を。



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「やはり妙な場所だな、ここは」

 遺跡に入った最初の夜。偽の夜空が広がる天井を見ながら先生が呟いた。
 ちゃっかり遺跡の中にまで着いてきた彼女は、俺達が休んでいる野営地にもしっかり自分の場所を陣取っていた。
 俺と言えば、いつもなら寝そべってだらだらしている頃なのだけれど、先生がいる手前あまりだらしない姿を見せることも出来ず、先生から少し離れて手帳に日記をつけている。
 先生の翼は元の大きさに戻っていて、右の翼だけ畳まれている。左の翼は少し開いて横に伸ばしていて、それと言うのもハイダラが熱心に羽根を触っているからだった。
 向こうで食事の支度をしてくれているカディムが時折ハイダラを見る度に、そこはかとなくやるせない顔をするのが(本人には申し訳ないが)俺にはおかしくてたまらない。先生は全く気にしていないのだが、カディムとしてはどうしても気になるようだ。そう言えば、ハイダラが先生の羽を触りたいと言い出した時も物凄く驚いていたように思う。
 ……実を言うと俺もそうだったんだけどね。俺が先生にそんなことを言ったらぶん殴られるし。
 今、先生は至極上機嫌で辺りを見回していた。

「やはり噂で聞くのと実際に見るのとは大違いだな。実に興味深い」
「この島の事を知っていたの?」

 暗い紅色の羽毛を静かに撫でながらハイダラが言う。先生は肩を竦めて頷いた。

「まぁ、噂はな。多種多様な世界から大勢集めて、何かやらかそうとしているらしいと、他の術者から伝え聞いていた。うちの馬鹿弟子がそこにいることまでは知らなかったが」
「だから、俺は無理矢理連れてこられたって言ったじゃないですか」
「おや、相当に楽しんでいるように見えるがな?」
「……楽しんでないって言ったら、そりゃあ、嘘になりますけど」

 ほら見た事か、と先生が笑う。畳んでいた右の翼を伸ばして、風切羽の先で軽く俺の頭を叩いた。

「そう塞ぐな。楽しむ事は悪いことじゃあない。寧ろこういう機会こそ前向きに捉え、逃さないようにすべきだろう。お前の行動は魔術師としては正解の類ではないのかな?」
「まぁ、研究するのは好きですけど」

 先生の前だとどうしても(色々と)沈みがちになる俺に構うのに、彼女は早々に飽きたらしい。また元通り右の翼を畳んで、それからハイダラの方へ向き直った。

「しかしあなたの翼の扱い方は何と言うか、手慣れているなぁ。なかなか心地が良い」
「ふふふ、そう?」
「うむ、そこで塞いでいる湿っぽい奴に触らせたらこうはいかんだろう」

 ……彼女は構ってないようでこうやって突然辛辣な構い方をするのだから始末に負えない。相変わらず俺への言い様が散々で、若干心が折れそうになる。若干。

「鳥……を、飼っているだけではこうはいかんな。身近に有翼人でもいたのか?」
「ああ、私の拾い親が翼を持っていたから」
「なるほどな。そちらにも有翼の者がいるのか」

 その「翼のある人」については、俺も少しだけ聞いた事がある。前の島にいた時には彼(でいいのかな?)の力の一部を借りた事さえあった。
 「彼」は恐らく、先生とはまた別の「翼を持つ種族」だろう。以前借りた力は、先生の扱う術よりも高度で、質の違う物に思えた。術と言うよりも能力と言った方がいいのかもしれない。言葉や身振りで世界を騙した結果得られる物ではなく、それぞれの存在が元々生まれ持っていた固有の力だ。
 そんな俺の考えなど全く知らぬ顔で、私らみたいなのは余所の世界にもいるのだなぁ、などと先生は呟いている。
 と、その時。

「あ」
「む?」

 先生の翼からぽろりと一枚、羽根が抜けた。暗赤色の部分に生えていたもののようで、飛行のためではなく保温の為に生えているふわふわした羽根だ。ほとんど羽毛に近い。
 しばらく漂っていたそれを、ぱし、とハイダラが捕まえた。指先につまんでしげしげと眺めて、残念そうに眉を寄せる。

「抜けてしまったね。少し強く触りすぎてしまったかな」
「いや、もうじき抜けるところだったのだろう。またすぐに次が生えるさ。少し飛ぶとほいほい抜けるし……そうだ、少し手品でもしてみせようか。そいつがあるなら丁度いい」

 そう言って先生はハイダラから羽根を受け取って、何やら意識を集中し始めた。
 やがて先生の手のひらの上で羽根が光り始め――不意に、鮮やかな紅色に燃え上がった。

「!」
「ちょ、ちょっと先生!」

 ハイダラが目を丸くする。俺もぎょっとして、思わず声を上げた。手のひらでものを燃やすなんて流石に無茶があるだろう。
 だが、すぐにそれが炎でないことに気がつく。
 先生は自分の羽根に魔力を流し込んでいた。炎に見える紅色の発光は溢れた彼女の力が光っているだけで、羽根本体は全く燃えていないのがわかる。
 先生は「手品」の結果をしばらく眺めてから、満足げに頷いた。

「まぁこんなものかな。よしレンジィ、ちょっとここに直れ」

 にわかに先生が恐ろしいことを言った。
 彼女がこんな風に言う時は大抵ろくな事にならないのを、俺は身をもって知っている。

「な、直れって、何でですか?」
「何でもだ。お前にもそう悪い話ではないぞ。何なら私が直々に押さえつけてやるが」
「直りますっ!」

 俺は慌てて先生の正面に移動した。彼女に「直々に」押さえつけられたら(実際の立場はともかく)絵面が格好悪すぎるし、うっかり知らない人に見られでもしたら誤解を招きかねない。
 きょとんとしたハイダラを尻目に、先生はしばらく羽根を持ったまま俺の周りをうろうろと歩き回って――突然、足を止めた。

「てい」
「……いっ!」

 間の抜けた声に俺の気が緩んだ直後、嫌に鋭い痛みが頭に走って俺は悲鳴を上げた。
 左側の頭皮だ。頭皮に軽く突き立った何かが、そのまま髪に挟まっている。

「おや、髪に挟むつもりだったのだが。頭に刺さったか?」
「も、もっと加減をして下さい。いきなり何をしてんですか貴女は」
「だから、手品だ。お前に取っては『応急処置』だがな」

 言っている事の半分も理解できない。俺は溜息を吐いて(ああ一体何度目だ)、頭に刺さったものを引き抜いた。何なのかは、大体予想がついている。
 案の定それは先生の羽根だった。さっき魔力を込めた奴だ。力はまだ羽根に留まり続けているようで、今も紅色に光っている。
 ……いや、よく見ると少しだけ違う。

「……お?」
「どうかした?」
「いや、その、これ」

 こちらを覗き込んでくるハイダラに、俺は先生の羽根を見せた。
 羽根の上端が、ほんの少しだけ紫色を帯びて光っていた。色が変わっている。

「そいつはお前の魔力に反応して変色するように仕掛けてある。レンジィ、どうもお前の魔力は『青い』印象が強いようだ。『紅い』印象を持った私の魔力と混ざって紫に見えるのだろう」

 『混ざっている』ということは、こいつは今俺の魔力にも触れていると言う事か。
 そこまで考えて、俺は先生がさっき言った『応急処置』という言葉の意味に思い当たった。思わず彼女を見上げる。

「――応急処置って言いましたね。どういう意味ですか」

 俺がそう言ったのを聞いて、今度はハイダラも思い当たったらしい。息をのむ気配がして、彼も先生の方を見た。
 先生と言えば、世間話でもするような調子で話し続けている。

「そのままだ。身につけて離すなよ。それが紅ないし紫をしているうちは、そこに詰めた私の力が放出され続けているお前の魔力を補う。その間はお前の消耗も抑えられるはずだ。色が完全に真っ青になったら持ってこい。充填してやる」
「どこまで分かってるんですか、今の俺がどうなってるか」

 まだ彼女には話していない、はずだ。息は相変わらず白いから、異変が起きている事自体は既にバレていると思っていたが――どこまで彼女は知っているんだろう。

「馬鹿にするな、何年お前の師をやってると思ってるんだ。弟子の異常ぐらい分からんで師匠が務まるか」

 そこまで言って、先生は珍しく溜息を吐いた。

「とにかくだ。お前の異常の原因が分からん事にはそいつは応急処置にしかなり得ん。だから当分はそいつを身につけていろ。原因もさっさと調べたい所だが……今日はもう遅いからな、明日にでもまた話し合うことにしよう」
「……分かりました」

 当面は彼女の言う通りにする他なさそうだ。顔を上げると不安げな顔をしたハイダラと目が合った。大丈夫、と頷いてから、さて何処にこの羽根をくっつけておこうか、と俺はしばらく考える羽目になったのだった。


(結局髪に挿すのはあんまりなので、無難に上着の胸ポケットに入れておく事にした)
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