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False Islandのキャラブログ。日記ログとか絵とかネタとか色々。 キャラロールがぽんと飛び出ますので苦手な方はご注意を。



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 遺跡外の外れにある小さな浜辺を、俺は一人で歩いていた。裸足になって波打ち際をうろうろする。透明な薄い膜のような水が寄せては返した。足に触れる水はまだ少しひんやりとしているが、それでも少し前の時期に比べれば格段に温かくなっていた。
 初夏だ、と思う。
 俺がうろついている浜辺は暑くて、俺は上着も脱いでいるのにうっすら汗ばんでいる。そう、俺は今、汗をかいている。生きているから。

 昨晩のハイダラの言葉で、俺の精神は大分落ち着いてきていた。恐怖がなくなったとは言い難いが、あれがグラーシャに対する感情ではないことを自覚させてもらえただけでもありがたかった。
 その一方で「何がこんなに恐ろしいのか」という別の問題に直面することになり、今はとにかく考えてみなければならないので、こうして一人、散歩とも徘徊ともつかない行動をとっている。
 とは言え、恐怖の源をすぐに覗き込めるはずもなく、俺の思考はどんどん脇道に外れていく。
 例えば――俺の元々いた世界での死者について、とか。

 俺の世界ではいわゆる「死者の国」があると言われていた。死んだ人間は冥府の門を通ってそこに行くのだという。ただ、どんなところかはてんで分からなかった。死霊術士と呼ばれる連中がいるにはいたが、彼らにとって死者の国との連絡手段は商売道具であったので、あまり話したがらなかった。それに彼らに出来るのは死者をほんの少しだけ呼び出して操ることだけで、死者蘇生というには程遠いものだった。
 けれど皆、死んだ後にあると言われる世界の事を信じている。場所によっては「生きている死体」や「吸血鬼」なんかの「死者」の範疇に入る連中がうろうろしていたから(下級の奴なら俺も戦った事がある)、死者の国の存在は割と抵抗なく受け入れられていた。
 俺もそうだった。
 そうでなくなったのは、グラーシャが死んでからだ。
 どうしたら彼女に会えるかという事を考える際に、死者の国は避けては通れない話だった。知り合いのつてを頼って何人かの死霊術士や霊媒士といった連中に彼女を呼び出してくれと頼んだが、どれも上手くいかなかったり、術者自体がただの詐欺師だったりした。
 そうするうちに、俺は、死者の国の存在を疑うまでではなかったが、少なくとも死霊術というものに対しては懐疑的な見方をするようになった。
 どうやら死者の国はある「らしい」が、それは俺達生者にとってはどうやっても生きたまま立ち入ることは許されない場所であるようだ。となると、彼女に会うために残された手段は一つだけ――俺も死んで死者の国に行く他ない。

 結局のところ、あの事故で死者の国に足を突っ込みかけた俺はそこの冷たさに自分から飛び込む気には到底なれなかったので、自殺はせずに、しかし完全に立ち直ることも諦めて、腐りながら先が長そうな人生を消費していこうとした。いつかは「その時」が来て、俺は彼女がいるであろう死者の国に行く。それを待っていた。

 だから、この島に飛ばされた時、楽しむ反面で焦ってもいたのだ。
 ここで万一俺が死んでしまったら、俺は「あちらの世界の死者の国」に行けるのだろうか? もしそうでなかったら、俺は永遠にグラーシャに会う機会を失ってしまう。それはどうしても嫌だった。
 だから何とか元の世界に帰る手段を見つけようとした。帰りたい理由を説明するのはなかなか大変そうだったから(特に先生に知られるのは面倒だ)、なるべく自分の力でやろうとした。

 それが今、分からなくなっている。
 彼女はどうも、俺の側にいるらしい。となると、死者の国には行っていなかった事になる。
 そう言えば死霊術士の一人がこんな事を言っていた気がする。「死者の国にそれらしい魂はいなかった。もしかしたら既に生まれ変わっているのかもしれないし、まだ死者の国にたどり着いていないのかもしれない」と。
 俺はそのどちらも信じなかった。前者なら、俺が向こうに行っても彼女には会えない事になってしまうし、後者であれば彼女はこっちに未練を残してさ迷っていることになる。そのどちらも嫌だった。だから俺は死霊術士の言葉を信じなかった。

 今は、彼の言葉が正しかったのだろうと思える。
 彼女は本当に死者の国にはいなかったのだ。――俺の側にいたのだから。

(……どうしたもんかな)

 波を蹴り上げて溜息を吐く。
 この島から帰還するための最大の理由を見失ってしまった。かと言って、今俺が生きたまま彼女に会う方法は見つかっていないし、覚悟もない。
 そしてこんな状態で、島に満ちるマナの影響(或いは狂気)から逃げ切れるのか、とい
う別の不安もある。
 「道を示す」能力だと解釈していた澪標は、今は何も示してはいない。
 俺の貧弱な意識は気を抜くと、すぐに目先の事ばかり考えてしまう。

(……本当に、どうしたもんか)

 もう一度、声に出さずに呟いて、俺は目を伏せた。
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