False Islandのキャラブログ。日記ログとか絵とかネタとか色々。
キャラロールがぽんと飛び出ますので苦手な方はご注意を。
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ぱちぱちと火が燃えている。赤々と宵闇を照らすこの焚き火以外に、この辺りに光源は見当たらない。真夜中と言うこともあってただひたすらに暗かった。上を見上げれば紛い物の星空が見え、火の側には番をするカディムとロージャの姿が見えるはずだが、今の俺には顔を上げることはおろか目を開ける気力すらない。毛布にくるまって寝そべったまま、眠ることもできず、冴えきった両目をもて余している。瞼を閉じているのにちっとも眠くならない。
昨日の実験で目の当たりにした「存在しないはずの『波』」が俺にもたらした衝撃は、まだ根強く俺の中にへばりついていた。
あの『波』から伝わってきた気配を思い出す度、心臓をぐしゃぐしゃに捻り潰されるような、それでいてこれ以上無いほどに焦がれる、甘苦い何かが喉元までせり上がってくる。
忘れたことなんて一度だってない。あれは彼女の、グラーシャの気配だった。
そんなはずはないと冷静な自分がどこかで叫んでいるが、その叫びを一蹴してしまうほど強く彼女の存在を感じた。もう存在しないはずの、死者であるの彼女を。
前にも一度だけそれらしい『波』を見たことがあったけれど、あの時は咄嗟に俺が澪標を解除してしまったせいで彼女だと断定することができなかった(恐らく、認めるのが怖かったんだ)。
けれど、昨日は違った。
あの『波』を感知した途端、二人で行った場所、交わした会話、曇天のような銀髪が朝日に光っている様、抱き寄せた身体の柔らかさやその曲線、振り向いた時の笑顔など、彼女に関するあらゆる感覚と感情が押し寄せてきて、窒息そうになった。
会いたい、触れたい、声が聞きたい! 側に居るのであれば、せめて夢の中ででも。
しかしその一方で俺は「グラーシャが側に居る」という突拍子もない考えに至った時、別の感情も――罪悪感も、抱いていた。
グラーシャが俺の側に居たとするならば、一体いつから俺を見ていたんだろう?
彼女が死んでしまったときから? それとも、俺が身体だけは回復して、故郷で抜け殻になっていたときから? どうにか一人で生活できるようになって、あの水辺の田舎町に越したときから? 俺があの男に騙されて、この島にやって来たときから?
分からない。だがいずれにしろ、彼女がこの島での俺の生活を見ていたのは確かだ。
俺はこの島に来て、本当に恵まれた生活を送っていた。様々なものを見て、沢山の人と会って、腹を割って話せる仲間もできた。今まで知らなかったことを知ることができた。
そう、ここでの生活は本当に楽しい。
けれど、そんな風に楽しんでいる俺を、彼女がずっと見ていたとしたら。
(恨むだろうか?)
私のことを忘れたのかと、俺のことを恨んでいたりしないだろうか?
そもそも俺は、元の世界で寿命を迎えたくて(だって彼女はあちらの死者の世界にしかいないと思っていたから)それで死んだ後に彼女に謝りたかったはずなのに、なのに、中間地点でしかないこの島が好きで仕方なくなってきている。ハイダラ達ともっと探索を続けていたいと、もっと色んなものが見たいと思ってしまっている。
そんな俺をグラーシャは怒るだろうか、恨むだろうか? だってそうだろう、彼女は死んでしまっているのに、俺だけ楽しんでいるなんて!
この感情はグラーシャが死んだばかりの頃が一番酷かった。これを口にする度に先生やロージャに「お前は彼女をそんな心の狭い人間だと思っていたのか」と怒られた。
俺だって彼女がそんな人間だとは思っていない。グラーシャはいつだって優しかった。
俺が間違っていたらちゃんと叱ってくれた。口ばかりで何もできない、俺の方がよっぽど嫌な人間だ。だからこうして感じる罪悪感にも恐怖にも、何の意味もないと分かっている。
それでも――グラーシャがずっと俺の側にいた、となれば話は別だ。
だってそれでは俺は、彼女の目の前で、彼女を先に逝かせてしまったくせに、呑気に笑っていたことになってしまう。
自分の身に降りかかった災難とそれに付随した探索、探索を通じて変化していく俺の心境、楽しむことを素直に受け入れられるようになっていく様、それらを全て本当に彼女が見ていたとしたら、俺は
「レン?」
不意にかけられた声に虚を突かれ、反射的に俺は目を開いた。
隣で眠っていたとばかり思っていたハイダラが、心配そうな顔をしてこっちを見ていた。淡い琥珀色の瞳と目が合う。
「……悪い、起こしちまった?」
「ううん、大丈夫。少し目が覚めただけ」
そう言って彼は笑ったが、すぐにまた真顔に戻り、こう続けた。
「レン、君は――その、嫌なら、言わなくてもいいのだけれど」
「ん?」
「何か、あった?」
問われて、思わず目を逸らしてから、ああ間違えた、と俺は後悔した。
これではいかにも「今悩みがあります」という反応だ。ハイダラにはなるべく心配をかけさせたくないから何でもないふりをしようと思っていたのに、今の俺にはそれをする余裕もないらしい。
それができないのなら、正直に話してしまった方が一番良い。
「……あの、さ」
「うん」
「今の俺の状況は、自分でもすごくおかしなことになってると思う。だけど他に考えようがなくて、それで昨日からずっと、考えてた」
ああ、上手く言葉が出ない。まともな文章が喋れない。
それでもハイダラは頷いてくれた。その反応に安心して俺は息を吐き、どうにか後に続く言葉を絞り出す。
「グラーシャが、居るかもしれない」
琥珀色の目が驚いたように一瞬見開かれ、それから、少し悲し気に細められた。
「……いつから?」
「前の島にいた時、一度だけそれらしい『波』を見たことがあった。その時の俺は気付かなかったふりをしたんだ。だけど昨日、はっきり見た。彼女の『波』を」
それからしばらく、俺達は何も言わなかった。聞こえるのは風で揺れる草の音やぱちぱち燃える焚き火の音ぐらいで、他に何の音も聞こえない。火の側で何か話していたカディムとロージャですら黙っている。
沈黙に耐え切れず、先に音を上げたのは俺の方だった。
「俺は『元の世界に帰りさえすれば決着がつくだろう』って、どこかで、考えてた。向こうに行きさえすれば、少なくとも向こうのあの世には彼女が居ると思ってたから――でも違った」
「…………」
「彼女は俺の近くに居る。四六時中、俺の側に居る訳じゃないんだろうけど、少なくとも俺が元いた世界には、居ない」
気を抜くと声が途切れそうになる。最近は落ち着いていた左脇腹の傷が酷く痛む。痛みで息が詰まりそうになりながら、それでも無理矢理、俺は言葉を繋いだ。
「そう思ったらすごく後ろめたくて、怖くなっちまって、でも彼女を怖がるなんてどうかしてるって、そう考えたら――どうしたらいいか、分からなくなっちまった……!」
後半はほとんど涙声だった。情けなさ過ぎて視線を上げられないし、滲んだ涙で視界もめちゃくちゃだった。だからその時、ハイダラがどんな顔で俺の言葉を聞いていたかは分からなかった。
俺が黙り込んでいると、ハイダラが静かに話し始めた。
「一つ、聞いてもいい?」
彼の問いにのろのろと顔を上げる。俺と視線を合わせてからハイダラは続けた。
「グラーシャの事を、君はどう思っている? 本当に、彼女が怖い?」
一瞬、どう答えたらいいか分からなかった。
けれど俺の躊躇をよそに、返事は勝手に口をついて出ていた。
「……違う、怖くなんかない。本当は」
それをきっかけにしてぼろぼろと言葉が続く。
「本当は、まだ、忘れられてなんかねーんだ。もういないって分かってるのに、何年経っても、何処にいても、探しちまう。グラーシャが死んだなんて嘘で、本当はまだ何処かにいるんじゃないか、って」
それは恐らく俺の本音に一番近いところで、今までほとんど口に出した事がない部分だった。考えても意味がないと思って、なるべく考えないようにしていた事だ。
――ああそうだ、俺はまだ彼女が好きなんだ。整理なんて、全然ついてない。
「レン。もっと丁寧に、一つ一つ、自分の中を見てご覧」
優しいけれどしっかりした声でハイダラが言う。
「それで少しずつ、グラーシャへの気持ちも、君が本当に怖がっているものについても整理していけばいい。焦る必要なんてないのだから」
細い手が伸びて来て、宥めるように俺の頭を軽く撫でた。彼の手首に通した腕輪がその拍子に涼しげな音を立てる。それで少し、気分が落ち着いてくる。
「……ごめん、ハイダラ。ありがとう」
俺がどうにかそれだけ言うと、彼は笑って首を横に振った。
「今日はもう休もう。明日は魔法陣まで行くんだし」
「ああ。……お休み、ハイダラ」
「うん、お休み」
最後にもう一度だけ俺の頭を撫でて、ハイダラの手が離れる。
俺は大きく深呼吸をして、それからようやく、目を閉じた。
昨日の実験で目の当たりにした「存在しないはずの『波』」が俺にもたらした衝撃は、まだ根強く俺の中にへばりついていた。
あの『波』から伝わってきた気配を思い出す度、心臓をぐしゃぐしゃに捻り潰されるような、それでいてこれ以上無いほどに焦がれる、甘苦い何かが喉元までせり上がってくる。
忘れたことなんて一度だってない。あれは彼女の、グラーシャの気配だった。
そんなはずはないと冷静な自分がどこかで叫んでいるが、その叫びを一蹴してしまうほど強く彼女の存在を感じた。もう存在しないはずの、死者であるの彼女を。
前にも一度だけそれらしい『波』を見たことがあったけれど、あの時は咄嗟に俺が澪標を解除してしまったせいで彼女だと断定することができなかった(恐らく、認めるのが怖かったんだ)。
けれど、昨日は違った。
あの『波』を感知した途端、二人で行った場所、交わした会話、曇天のような銀髪が朝日に光っている様、抱き寄せた身体の柔らかさやその曲線、振り向いた時の笑顔など、彼女に関するあらゆる感覚と感情が押し寄せてきて、窒息そうになった。
会いたい、触れたい、声が聞きたい! 側に居るのであれば、せめて夢の中ででも。
しかしその一方で俺は「グラーシャが側に居る」という突拍子もない考えに至った時、別の感情も――罪悪感も、抱いていた。
グラーシャが俺の側に居たとするならば、一体いつから俺を見ていたんだろう?
彼女が死んでしまったときから? それとも、俺が身体だけは回復して、故郷で抜け殻になっていたときから? どうにか一人で生活できるようになって、あの水辺の田舎町に越したときから? 俺があの男に騙されて、この島にやって来たときから?
分からない。だがいずれにしろ、彼女がこの島での俺の生活を見ていたのは確かだ。
俺はこの島に来て、本当に恵まれた生活を送っていた。様々なものを見て、沢山の人と会って、腹を割って話せる仲間もできた。今まで知らなかったことを知ることができた。
そう、ここでの生活は本当に楽しい。
けれど、そんな風に楽しんでいる俺を、彼女がずっと見ていたとしたら。
(恨むだろうか?)
私のことを忘れたのかと、俺のことを恨んでいたりしないだろうか?
そもそも俺は、元の世界で寿命を迎えたくて(だって彼女はあちらの死者の世界にしかいないと思っていたから)それで死んだ後に彼女に謝りたかったはずなのに、なのに、中間地点でしかないこの島が好きで仕方なくなってきている。ハイダラ達ともっと探索を続けていたいと、もっと色んなものが見たいと思ってしまっている。
そんな俺をグラーシャは怒るだろうか、恨むだろうか? だってそうだろう、彼女は死んでしまっているのに、俺だけ楽しんでいるなんて!
この感情はグラーシャが死んだばかりの頃が一番酷かった。これを口にする度に先生やロージャに「お前は彼女をそんな心の狭い人間だと思っていたのか」と怒られた。
俺だって彼女がそんな人間だとは思っていない。グラーシャはいつだって優しかった。
俺が間違っていたらちゃんと叱ってくれた。口ばかりで何もできない、俺の方がよっぽど嫌な人間だ。だからこうして感じる罪悪感にも恐怖にも、何の意味もないと分かっている。
それでも――グラーシャがずっと俺の側にいた、となれば話は別だ。
だってそれでは俺は、彼女の目の前で、彼女を先に逝かせてしまったくせに、呑気に笑っていたことになってしまう。
自分の身に降りかかった災難とそれに付随した探索、探索を通じて変化していく俺の心境、楽しむことを素直に受け入れられるようになっていく様、それらを全て本当に彼女が見ていたとしたら、俺は
「レン?」
不意にかけられた声に虚を突かれ、反射的に俺は目を開いた。
隣で眠っていたとばかり思っていたハイダラが、心配そうな顔をしてこっちを見ていた。淡い琥珀色の瞳と目が合う。
「……悪い、起こしちまった?」
「ううん、大丈夫。少し目が覚めただけ」
そう言って彼は笑ったが、すぐにまた真顔に戻り、こう続けた。
「レン、君は――その、嫌なら、言わなくてもいいのだけれど」
「ん?」
「何か、あった?」
問われて、思わず目を逸らしてから、ああ間違えた、と俺は後悔した。
これではいかにも「今悩みがあります」という反応だ。ハイダラにはなるべく心配をかけさせたくないから何でもないふりをしようと思っていたのに、今の俺にはそれをする余裕もないらしい。
それができないのなら、正直に話してしまった方が一番良い。
「……あの、さ」
「うん」
「今の俺の状況は、自分でもすごくおかしなことになってると思う。だけど他に考えようがなくて、それで昨日からずっと、考えてた」
ああ、上手く言葉が出ない。まともな文章が喋れない。
それでもハイダラは頷いてくれた。その反応に安心して俺は息を吐き、どうにか後に続く言葉を絞り出す。
「グラーシャが、居るかもしれない」
琥珀色の目が驚いたように一瞬見開かれ、それから、少し悲し気に細められた。
「……いつから?」
「前の島にいた時、一度だけそれらしい『波』を見たことがあった。その時の俺は気付かなかったふりをしたんだ。だけど昨日、はっきり見た。彼女の『波』を」
それからしばらく、俺達は何も言わなかった。聞こえるのは風で揺れる草の音やぱちぱち燃える焚き火の音ぐらいで、他に何の音も聞こえない。火の側で何か話していたカディムとロージャですら黙っている。
沈黙に耐え切れず、先に音を上げたのは俺の方だった。
「俺は『元の世界に帰りさえすれば決着がつくだろう』って、どこかで、考えてた。向こうに行きさえすれば、少なくとも向こうのあの世には彼女が居ると思ってたから――でも違った」
「…………」
「彼女は俺の近くに居る。四六時中、俺の側に居る訳じゃないんだろうけど、少なくとも俺が元いた世界には、居ない」
気を抜くと声が途切れそうになる。最近は落ち着いていた左脇腹の傷が酷く痛む。痛みで息が詰まりそうになりながら、それでも無理矢理、俺は言葉を繋いだ。
「そう思ったらすごく後ろめたくて、怖くなっちまって、でも彼女を怖がるなんてどうかしてるって、そう考えたら――どうしたらいいか、分からなくなっちまった……!」
後半はほとんど涙声だった。情けなさ過ぎて視線を上げられないし、滲んだ涙で視界もめちゃくちゃだった。だからその時、ハイダラがどんな顔で俺の言葉を聞いていたかは分からなかった。
俺が黙り込んでいると、ハイダラが静かに話し始めた。
「一つ、聞いてもいい?」
彼の問いにのろのろと顔を上げる。俺と視線を合わせてからハイダラは続けた。
「グラーシャの事を、君はどう思っている? 本当に、彼女が怖い?」
一瞬、どう答えたらいいか分からなかった。
けれど俺の躊躇をよそに、返事は勝手に口をついて出ていた。
「……違う、怖くなんかない。本当は」
それをきっかけにしてぼろぼろと言葉が続く。
「本当は、まだ、忘れられてなんかねーんだ。もういないって分かってるのに、何年経っても、何処にいても、探しちまう。グラーシャが死んだなんて嘘で、本当はまだ何処かにいるんじゃないか、って」
それは恐らく俺の本音に一番近いところで、今までほとんど口に出した事がない部分だった。考えても意味がないと思って、なるべく考えないようにしていた事だ。
――ああそうだ、俺はまだ彼女が好きなんだ。整理なんて、全然ついてない。
「レン。もっと丁寧に、一つ一つ、自分の中を見てご覧」
優しいけれどしっかりした声でハイダラが言う。
「それで少しずつ、グラーシャへの気持ちも、君が本当に怖がっているものについても整理していけばいい。焦る必要なんてないのだから」
細い手が伸びて来て、宥めるように俺の頭を軽く撫でた。彼の手首に通した腕輪がその拍子に涼しげな音を立てる。それで少し、気分が落ち着いてくる。
「……ごめん、ハイダラ。ありがとう」
俺がどうにかそれだけ言うと、彼は笑って首を横に振った。
「今日はもう休もう。明日は魔法陣まで行くんだし」
「ああ。……お休み、ハイダラ」
「うん、お休み」
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