False Islandのキャラブログ。日記ログとか絵とかネタとか色々。
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今日の偽葉との戦いも一段落がつき、食事も済ませた夜遅く。
俺は野営地点から抜け出して、近くの川まで歩いた。ロージャが後ろからついて来る。
まだ俺がどこかにいっちまいやしないかと思っているらしい。仕方ないが。
彼の事は気にしないようにしながら、川の水で顔を洗った。冷たい水に身が引き締まるように思う。
「……何、緊張してるの?」
そんな風に言ってくるロージャの声も固い。思わず笑ってしまう。
「お前だって緊張してるじゃねーか」
「あのねぇ、僕は……」
「平気だよ。ちっとばかし、気合い入れに来ただけだ。……さ、戻るか」
軽く膝を叩いて立ち上がる。そのまま、振り返らずに歩き出した。
「今戻ったよ。――ハイダラ、ちょっといいか?」
野営に戻ってすぐ、俺はそんな風に切り出した。
ハイダラは並べたクッションに背を預けていたが、すぐに身を起こしてこっちを見てくれた。
「ああ、おかえり。どうしたの?」
「ちょっとな、話したい事があって。カディムも、来てもらっていいかな。あんたにも聞いてもらいたい」
「……畏まりました、只今参ります」
カディムが軽く頷いて、ハイダラの少し後ろに控えた。
二人が来た所で、俺は一度深呼吸をした。なんだかんだで緊張している。落ち着かなければ。
ロージャといえば、俺達から少し離れた木に寄りかかって立っている。さっきから俺の方を見たまま無言でいる。無言ではあるがその両目が言っている。早く始めろと。
「ごめんな、急に妙な事言って。……この前、俺が勝手な真似をしちまってた時の事、けじめつけなきゃなんねーと思って。何であんな事をしたのか、ちゃんと、話す。だから少し、聞いててもらえねーか」
「!」
ハイダラが一瞬、息を呑んだ。それからすぐに彼は目を細めて、小さく頷いた。
「……うん、分かった。聞かせてくれないか」
「ありがとう、恩に着る」
さあ、始めよう。あれだけ考えたんだ。ちゃんと言葉にしよう。
俺は出来るだけ低く、穏やかな声を作って、最初から話し始めた。
「あんたから逃げた時も言ったけれど、俺は……グラーシャを生き返らせたかった。過去を操作すれば彼女の死をなかった事にできると思ってた。彼女を死なせたままで、生きている自分が怖かったから」
あの時ハイダラに言った言葉は、まだよく覚えている。それを下敷にしていきながら続ける。
「だけどな、正気に戻ってからよく考えたんだ。何で俺は怖かったのか、彼女の死を乗り越えたくなかったのはどうしてか、何が引っ掛かっているのか。それで、やっと一つ思い当たった。――なぁ、ハイダラ」
俺が声をかけると、彼は僅かに首を傾げた。
「大分前だけど、俺が『グラーシャがこっちにいるかも』って、言った事があったろ?」
「……うん、あった」
思い返せば、この島の時間でもう二ヶ月近く前の話だ。
それなのに随分と前の出来事に思える。
「あの時あんたに『グラーシャをどう思ってるか』って聞かれて、俺がどう答えたか、覚えてる?」
「……まだ、忘れられないと言っていたね?」
「ああ」
息継ぎをひとつして、先を続ける。
「俺はその先をもっと考えなきゃならなかった。あんたも、丁寧に考えてみろって言ってくれたのにな。……逃げちまったんだ。どうしたらいいか分からなくて、後回しにした」
情けないにもほどがある。
分からないなら納得が行くまで考えるべきだった。それが自分の感情であるなら尚更だ。
「そのうち『過去を操れる』なんていう噂を聞いちまった。しばらくは、そんなの無理だと思ってた。でも、他にどうしたら良いか分からなくて、ずっとその噂が気になってた。――それで結局、そこに逃げた。過去を変えれば、グラーシャが死ななかった事にすればきっとうまく行くって思って、それであの様だ」
何かに憑かれていたようだった、あの時を思い出す。
いや、憑かれていたという表情はおこがましい。あれは俺が自分で選んだ結果だ。何かのせいではなく、他でもない俺自身が招いた事だ。
そこまで考えて目を閉じた。今は話す事に集中しよう。
「自分の本心から目を逸らしたりするからこんな事になる。だから、もう逃げない」
もう一度息をついて、俺は口を開いた。
「――俺は、まだグラーシャが好きだ。いなくなっちまったって分かってても愛してる。それは分かってる。問題はそこから先だ」
本心を口にするのは、少し怖い。
けれどここにいる人達は俺の本心を知ったからって笑ったり、馬鹿にしたりするような人達じゃない。だから、怖がる必要はない。
「俺は、彼女に何も返せていないと思ってた。彼女が生きていた頃からずっと、俺はもらってばかりで、何も与えられなかったって、バカばっかりやってたって思ってたんだ」
声がつまる。このあたりを言葉にして表現するのは、まだ辛かった。
だがさっき自分で言ったように、俺はもう逃げるわけにはいかない。十年近く逃げ続けた。潮時だろう。
「だから彼女が死んだ時、悲しかったのは勿論だったんだけれど――同じぐらい、悔しかった。自分に腹が立って仕方なかった。何もできなかったから」
一度そこに切り出してしまうと、意外と後は楽だった。皆が黙って聞いてくれている。それにひどく安心した。
「……俺がずっと引っ掛かってたのはそれだったんだ。つまるところ俺は、気が済んでなかった」
俺は彼女と過ごした時間よりも、彼女に対して出来なかった事に執着していた。そのせいでこんな所まで引きずった挙げ句、彼女の魂までこちら側に縛りつけてしまっていた。
ため息を吐く。今日でもう何度目だろう?
「……二十日ぐらい前にさ、先生に、俺が執着しているのは本当にグラーシャなのか、俺は単に自分の感情にしがみついてるだけなんじゃないか、って言われたんだ」
「――!」
「いや、いいんだ。先生の言う通りだった。俺は、自分の未練を晴らしたかっただけだった。笑っちまうよ」
驚いて身を乗り出したハイダラに向かって言い、肩を竦める。
「こういうのは損得勘定で考えるもんじゃねーってのは分かってたつもりなんだけどな。いつの間にか、貰った分だけ返さなきゃって思ってた。でも多分、そんなんは愛でも恋でもねーんだ」
「……それで、これからはどうしたいんだ?」
それまで黙っていたロージャが、初めて口を開いた。
この問いに対する答えも、もう決まっている。
「会って、謝りたい。みっともないとこも見せたし、彼女を疑うような真似もした。俺を、恨んでるんじゃないかって」
ぱちっ、と嫌に大きな音を立てて薪がはぜた。
その音にけしかけられるようにして話を続ける。
「今は違うって分かる。それも俺の未練の一部でしかない。そんなもんを俺はグラーシャとごっちゃにしちまった。だからまずはそれを謝りたい。それから」
ここだ。ここが一番大事な事。
落ち着いて慎重に、ひとつずつ、俺は言葉を選んだ。
「ちゃんと、礼が言いたい。側に居てくれた事、あれからも居てくれようとしてた事、愛してくれた事、全部に」
以前の俺は、会いたい、会って謝りたい、とばかり考えていた。その前にもっと彼女に言いたい事があったのに、考えないようにしていた。そんな資格なんてないと思っていたから。
今は、違う。
「ま、どうすりゃいいかってのは全然考えてねーんだけどな。追々考えるさ。今はあの葉っぱどもを何とかしなきゃなんねーし」
「……ふふ、そうだね。こんな状況では、どうも落ち着けない」
彼と顔を見合わせて笑う。相変わらず周りはうるさいし、ユグドラシルは燦々と輝いているけれど、そんな事は気にならなくなっていた。
……さて、もうひとつ重要な事が残っている。
「――ハイダラ、カディム」
「うん?」
俺は姿勢を正して、ハイダラ達の方に向き直った。ハイダラの、淡い琥珀色の両目がきょとんとした表情でこっちを見ている。カディムはいつも通りの無表情で、今の俺はうまくその感情を読み取れない(ロージャなら、多分分かるんだろうけれど)。
二人に向かって、俺は深く頭を下げた。
「レン?」
「今回は俺の勝手のせいで迷惑かけちまって、本当にごめん。本来なら」
何か言いかけたハイダラの言葉を遮って、先を続ける。
「本来なら、パーティを解散されたって文句は言えなかった。あんたとの約束だって破ったし、仲間を騙すなんて一番やっちゃいけない事だ。そんな俺をまた受け入れてくれて、本当にありがとう。――正直、あんたともう一度組めて、すごくホッとしてる」
頭を下げたまま言った言葉は、だんだん尻窄みになった。
俺がやった事は敵意こそ無かったが、彼に危害を加えた事に変わりはない。それだけでなくハイダラの体調にも少なからず影響を与えたし(彼は今も時々、鳥のような声を出す事がある)、彼が落ち着くまでカディムにかけた心労だって相当なものだ。そして何より「一人で無茶はしない」というハイダラとの約束も破ってしまった。
それなのに、どさくさに紛れて戻って来た俺を彼らは受け入れてくれた。
本当なら俺は正気に戻った時、ちゃんとそこまで考えるべきだったんだ。それなのにこんなに遅れてしまった。つくづく、情けない話だ。
しゃら、と涼しい音がした。気配が俺の側まで近づいてきた。俯いた俺の視界の端、長くて白い髪が滝のように流れている。
すぐ近くで、ハイダラの落ち着いた声がした。
「……レン、話してくれてありがとう。君の言葉で聞く事ができたのも、君が本心を教えてくれたのも嬉しい。だから、私からも礼を言う。ありがとう」
胸が苦しくなって、喉の奥まで何かがせり上がって来た。目から零れだしそうになった熱に耐え切れなくなって瞼を閉じる。
俯いたままで良かった。今はとても顔を上げられない。
「あの時の事は気にしないで、君が戻って来てくれただけで良いんだもの。だから、これからは私達にも協力させてくれ。以前も言ったけれど、その為に私達は互いが居るのだから」
俺は俯いたまま、しゃっくりあげそうになるのを無理矢理押さえ込んで、何度も頷いた。
黙って頭を撫でてくれる手が、とても温かかった。
俺は野営地点から抜け出して、近くの川まで歩いた。ロージャが後ろからついて来る。
まだ俺がどこかにいっちまいやしないかと思っているらしい。仕方ないが。
彼の事は気にしないようにしながら、川の水で顔を洗った。冷たい水に身が引き締まるように思う。
「……何、緊張してるの?」
そんな風に言ってくるロージャの声も固い。思わず笑ってしまう。
「お前だって緊張してるじゃねーか」
「あのねぇ、僕は……」
「平気だよ。ちっとばかし、気合い入れに来ただけだ。……さ、戻るか」
軽く膝を叩いて立ち上がる。そのまま、振り返らずに歩き出した。
「今戻ったよ。――ハイダラ、ちょっといいか?」
野営に戻ってすぐ、俺はそんな風に切り出した。
ハイダラは並べたクッションに背を預けていたが、すぐに身を起こしてこっちを見てくれた。
「ああ、おかえり。どうしたの?」
「ちょっとな、話したい事があって。カディムも、来てもらっていいかな。あんたにも聞いてもらいたい」
「……畏まりました、只今参ります」
カディムが軽く頷いて、ハイダラの少し後ろに控えた。
二人が来た所で、俺は一度深呼吸をした。なんだかんだで緊張している。落ち着かなければ。
ロージャといえば、俺達から少し離れた木に寄りかかって立っている。さっきから俺の方を見たまま無言でいる。無言ではあるがその両目が言っている。早く始めろと。
「ごめんな、急に妙な事言って。……この前、俺が勝手な真似をしちまってた時の事、けじめつけなきゃなんねーと思って。何であんな事をしたのか、ちゃんと、話す。だから少し、聞いててもらえねーか」
「!」
ハイダラが一瞬、息を呑んだ。それからすぐに彼は目を細めて、小さく頷いた。
「……うん、分かった。聞かせてくれないか」
「ありがとう、恩に着る」
さあ、始めよう。あれだけ考えたんだ。ちゃんと言葉にしよう。
俺は出来るだけ低く、穏やかな声を作って、最初から話し始めた。
「あんたから逃げた時も言ったけれど、俺は……グラーシャを生き返らせたかった。過去を操作すれば彼女の死をなかった事にできると思ってた。彼女を死なせたままで、生きている自分が怖かったから」
あの時ハイダラに言った言葉は、まだよく覚えている。それを下敷にしていきながら続ける。
「だけどな、正気に戻ってからよく考えたんだ。何で俺は怖かったのか、彼女の死を乗り越えたくなかったのはどうしてか、何が引っ掛かっているのか。それで、やっと一つ思い当たった。――なぁ、ハイダラ」
俺が声をかけると、彼は僅かに首を傾げた。
「大分前だけど、俺が『グラーシャがこっちにいるかも』って、言った事があったろ?」
「……うん、あった」
思い返せば、この島の時間でもう二ヶ月近く前の話だ。
それなのに随分と前の出来事に思える。
「あの時あんたに『グラーシャをどう思ってるか』って聞かれて、俺がどう答えたか、覚えてる?」
「……まだ、忘れられないと言っていたね?」
「ああ」
息継ぎをひとつして、先を続ける。
「俺はその先をもっと考えなきゃならなかった。あんたも、丁寧に考えてみろって言ってくれたのにな。……逃げちまったんだ。どうしたらいいか分からなくて、後回しにした」
情けないにもほどがある。
分からないなら納得が行くまで考えるべきだった。それが自分の感情であるなら尚更だ。
「そのうち『過去を操れる』なんていう噂を聞いちまった。しばらくは、そんなの無理だと思ってた。でも、他にどうしたら良いか分からなくて、ずっとその噂が気になってた。――それで結局、そこに逃げた。過去を変えれば、グラーシャが死ななかった事にすればきっとうまく行くって思って、それであの様だ」
何かに憑かれていたようだった、あの時を思い出す。
いや、憑かれていたという表情はおこがましい。あれは俺が自分で選んだ結果だ。何かのせいではなく、他でもない俺自身が招いた事だ。
そこまで考えて目を閉じた。今は話す事に集中しよう。
「自分の本心から目を逸らしたりするからこんな事になる。だから、もう逃げない」
もう一度息をついて、俺は口を開いた。
「――俺は、まだグラーシャが好きだ。いなくなっちまったって分かってても愛してる。それは分かってる。問題はそこから先だ」
本心を口にするのは、少し怖い。
けれどここにいる人達は俺の本心を知ったからって笑ったり、馬鹿にしたりするような人達じゃない。だから、怖がる必要はない。
「俺は、彼女に何も返せていないと思ってた。彼女が生きていた頃からずっと、俺はもらってばかりで、何も与えられなかったって、バカばっかりやってたって思ってたんだ」
声がつまる。このあたりを言葉にして表現するのは、まだ辛かった。
だがさっき自分で言ったように、俺はもう逃げるわけにはいかない。十年近く逃げ続けた。潮時だろう。
「だから彼女が死んだ時、悲しかったのは勿論だったんだけれど――同じぐらい、悔しかった。自分に腹が立って仕方なかった。何もできなかったから」
一度そこに切り出してしまうと、意外と後は楽だった。皆が黙って聞いてくれている。それにひどく安心した。
「……俺がずっと引っ掛かってたのはそれだったんだ。つまるところ俺は、気が済んでなかった」
俺は彼女と過ごした時間よりも、彼女に対して出来なかった事に執着していた。そのせいでこんな所まで引きずった挙げ句、彼女の魂までこちら側に縛りつけてしまっていた。
ため息を吐く。今日でもう何度目だろう?
「……二十日ぐらい前にさ、先生に、俺が執着しているのは本当にグラーシャなのか、俺は単に自分の感情にしがみついてるだけなんじゃないか、って言われたんだ」
「――!」
「いや、いいんだ。先生の言う通りだった。俺は、自分の未練を晴らしたかっただけだった。笑っちまうよ」
驚いて身を乗り出したハイダラに向かって言い、肩を竦める。
「こういうのは損得勘定で考えるもんじゃねーってのは分かってたつもりなんだけどな。いつの間にか、貰った分だけ返さなきゃって思ってた。でも多分、そんなんは愛でも恋でもねーんだ」
「……それで、これからはどうしたいんだ?」
それまで黙っていたロージャが、初めて口を開いた。
この問いに対する答えも、もう決まっている。
「会って、謝りたい。みっともないとこも見せたし、彼女を疑うような真似もした。俺を、恨んでるんじゃないかって」
ぱちっ、と嫌に大きな音を立てて薪がはぜた。
その音にけしかけられるようにして話を続ける。
「今は違うって分かる。それも俺の未練の一部でしかない。そんなもんを俺はグラーシャとごっちゃにしちまった。だからまずはそれを謝りたい。それから」
ここだ。ここが一番大事な事。
落ち着いて慎重に、ひとつずつ、俺は言葉を選んだ。
「ちゃんと、礼が言いたい。側に居てくれた事、あれからも居てくれようとしてた事、愛してくれた事、全部に」
以前の俺は、会いたい、会って謝りたい、とばかり考えていた。その前にもっと彼女に言いたい事があったのに、考えないようにしていた。そんな資格なんてないと思っていたから。
今は、違う。
「ま、どうすりゃいいかってのは全然考えてねーんだけどな。追々考えるさ。今はあの葉っぱどもを何とかしなきゃなんねーし」
「……ふふ、そうだね。こんな状況では、どうも落ち着けない」
彼と顔を見合わせて笑う。相変わらず周りはうるさいし、ユグドラシルは燦々と輝いているけれど、そんな事は気にならなくなっていた。
……さて、もうひとつ重要な事が残っている。
「――ハイダラ、カディム」
「うん?」
俺は姿勢を正して、ハイダラ達の方に向き直った。ハイダラの、淡い琥珀色の両目がきょとんとした表情でこっちを見ている。カディムはいつも通りの無表情で、今の俺はうまくその感情を読み取れない(ロージャなら、多分分かるんだろうけれど)。
二人に向かって、俺は深く頭を下げた。
「レン?」
「今回は俺の勝手のせいで迷惑かけちまって、本当にごめん。本来なら」
何か言いかけたハイダラの言葉を遮って、先を続ける。
「本来なら、パーティを解散されたって文句は言えなかった。あんたとの約束だって破ったし、仲間を騙すなんて一番やっちゃいけない事だ。そんな俺をまた受け入れてくれて、本当にありがとう。――正直、あんたともう一度組めて、すごくホッとしてる」
頭を下げたまま言った言葉は、だんだん尻窄みになった。
俺がやった事は敵意こそ無かったが、彼に危害を加えた事に変わりはない。それだけでなくハイダラの体調にも少なからず影響を与えたし(彼は今も時々、鳥のような声を出す事がある)、彼が落ち着くまでカディムにかけた心労だって相当なものだ。そして何より「一人で無茶はしない」というハイダラとの約束も破ってしまった。
それなのに、どさくさに紛れて戻って来た俺を彼らは受け入れてくれた。
本当なら俺は正気に戻った時、ちゃんとそこまで考えるべきだったんだ。それなのにこんなに遅れてしまった。つくづく、情けない話だ。
しゃら、と涼しい音がした。気配が俺の側まで近づいてきた。俯いた俺の視界の端、長くて白い髪が滝のように流れている。
すぐ近くで、ハイダラの落ち着いた声がした。
「……レン、話してくれてありがとう。君の言葉で聞く事ができたのも、君が本心を教えてくれたのも嬉しい。だから、私からも礼を言う。ありがとう」
胸が苦しくなって、喉の奥まで何かがせり上がって来た。目から零れだしそうになった熱に耐え切れなくなって瞼を閉じる。
俯いたままで良かった。今はとても顔を上げられない。
「あの時の事は気にしないで、君が戻って来てくれただけで良いんだもの。だから、これからは私達にも協力させてくれ。以前も言ったけれど、その為に私達は互いが居るのだから」
俺は俯いたまま、しゃっくりあげそうになるのを無理矢理押さえ込んで、何度も頷いた。
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