False Islandのキャラブログ。日記ログとか絵とかネタとか色々。
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ユグドラシルの根元で過ごした最初の昼
あるいは
さざなみと杖の顛末
その始まりの第二幕
岩陰に小さな川を見つけられたのは運が良かった。
出来るなら近くに人が居ない方が都合が良かったが、何しろ今は探索者の大半がこの小さな島(島の中の島!)に閉じ込められている状態だ。どこにいたって多かれ少なかれ人目がある。
「ええと、それじゃあロージャ、目隠しよろしく」
「はいはい」
また人の姿になったロージャが呆れた声で言って、蔓模様が染め抜かれた肩掛けを広げた。俺が身につけても膝まで隠れるぐらい大きな肩掛けで、服を脱ぐ間の目隠しには充分な大きさだった。
彼が視線を遮ってくれている間、急いで下着一枚になった。ロージャから肩掛けを受け取って腰に巻き、落ちないようにピンで留める。うまいこと隠れたところで下着も脱ぐ。
それから脱いだものを一枚ずつ、小川の流れで水洗いした。長期戦になるから石鹸は無駄遣いしない方がいいだろう。カディムなら持っていそうだけれど、迷惑をかけまくった手前、あまりわがままも言えない。
洗い終わった服や下着は側の大岩に貼り付けて乾かす。今日はそこそこ気温が高いから何とか次の戦闘までには乾くだろう。
乾かしている間にもう一枚布切れを水に浸した。軽く絞ってから体を拭く。本当は水浴びをしたいが、こう人が多いとそれも難しい。無精髭を剃るのも、少しの間お預けだ。
最後に水をコップに汲んで、肩掛けを濡らさないように気をつけながら髪をすすいだ。それを何度繰り返しても、羽毛と化したうなじの毛は水を弾いた。……この事はあまり考えないようにしよう、今は。
「……はー」
やっと一段落ついたところで、岩に寄りかかって目を閉じる。
隣にロージャが腰を下ろす気配がした。
「落ち着いた?」
「何とか」
「頭痛と熱は? 昨日、酷いって言ってたけど」
「今は平気。薬飲んだら大分楽になった」
「そう。……服が乾いたら、アクエス君にお礼言いに行かなきゃね」
「……だな」
ため息を吐いて目を開ける。霞の向こうに光輝くユグドラシルの大樹が見える。まだ豊かに葉を繁らせたままだ。畜生め。
俺が勝手なことをしている間「代理」として動いていたロージャによれば、俺の不在は表向きには「体調不良」と言う事になっていたらしい。その話を聞いてアクエス君が二つ三つ風邪薬を用意してくれたそうで、実際俺は昨日の晩、彼の薬のお世話になったのだった。
ろくに飯も食わずうろついていたせいで体が弱っていたし、マナの侵食は俺の場合風邪のような微熱を伴っていた。おまけに昨日の戦闘で負った傷まで発熱して酷い目に遭った。半分ぐらいは自業自得だが。
アクエス君の薬はよく効いていて、今は普通に動き回れる程度に回復している。
「……結構苦かったけどもな。良薬口に苦しだっけ? やっぱ良く効く薬は苦いんかねぇ」
「そりゃ、思いっきり苦くしてくれって僕が言ったんだもの」
「お前か」
「だけど目、醒めたでしょう?」
「……まぁ、な」
もう一度ため息を吐く。
ロージャの言う通りで、俺の思考はまだ完全に元通りとは言いがたい状態だ。少し刺激の強いもの(たとえば苦みとか)で時々正気に戻してやらないと、またいつおかしくならないとも限らない。
一人で居た間の事を、全く覚えていないと言ったら嘘になる。
ただ、あの時の思考は余りにもとりとめがなくまとまりを欠いていて、とても時系列に沿って考えられるような代物ではない。こんなことがあった、ということをぼんやり覚えているだけだ。……それにしたって、俺のした事は許される事ではないけれど。
同時にあの時は外界からの刺激にも酷く鈍感になっていて、おかげで正気に戻ってからびっくりしなおしたことが幾つかある。
例えば。
「……しっかしまぁ、随分様変わりしたよなお前。今更だけどびっくりだ」
「遅い。本当なら会った時にびっくりしてなきゃおかしいんだぞ」
「悪い悪い。お、ちゃんと伸びるのなこの辺も」
「……っ! 餓鬼か君は!」
冗談で軽くロージャの頬を引っ張ったら、その手を思い切り叩き落とされた。痛い。
ロージャの姿は俺とはまるで正反対の格好だった。外見の年齢は二十代の半ばぐらいに見えるが、顔はもう少し幼く見える。大きな目は俺とは逆につり上がっていて、鼻も顎もつんと尖っていていかにも気が強そうだ。金色の猫毛は多分、文字盤部分の金の飾りが変化したものだろう。ひょろひょろした手足は細長い柄が形を変えたのかもしれない。
無理矢理化けているせいかどことなく作り物めいた雰囲気があるが、ふてくされたような表情の幼さがそれを和らげていて、とりあえずは人間に見える。
「……君がいない間は大変だったんだからな」
少しして、ぼそりとロージャが言った。
「ハイダラは食事も寝る間も惜しんで君を探し回るし、カディムが止めようとしてしょっちゅう引っ掻かれたり蹴倒されたりするし。僕が何度仲裁に入ったことか」
「……マジで?」
「君だって出会い頭に噛みつかれたただろう」
「あれは……うん、俺もおかしくなってたけど、それでもびっくりしたな」
「それだけ心配してたんだよ。……よく、獣が自分の仔をくわえて運ぶだろう。あれと同じさ。噛みついてでも君を確保して、安全な場所まで引っ張って行こうとしたんだ」
「……ああ、分かってる」
彼に噛みつかれた時は流石に驚いた。あの時は感覚が摩耗しきっていたけれど、それでも痛みと衝撃で少し正気に返った気がする。
俺から見たハイダラは割と落ち着いてのんびりしている印象が強くて(戦闘中にその片鱗を見せる事はあったけれど)カディムが言うような気性の激しさを目の当たりにした事はあまりなかった。だから彼に噛みつかれたのは、俺にとってはそれこそ目を覚まさせられるような出来事だった。
そしてハイダラがそこまで荒れていたというのも予想外で、カディムとロージャにとばっちりが行ってしまったとなると(ロージャはともかく)カディムには申し訳なさ過ぎていくら謝っても足りないぐらいだ。
……もう一度後でちゃんと、謝っておこう。ハイダラにも、カディムにも。
「ロージャ、俺さ」
「何」
「今日の晩か、明日にでも――ちゃんと、ハイダラ達に話をするよ。俺がやった事は本当にろくでもなくて、自分でも情けなくってしょうがねーけど、それでも、何であんな真似をしたのかって事は、話さなきゃならねーって思うから。……それから」
息を呑む。この事に触れるのは、まだ辛い。
それでもこれ以上、逃げ続けるわけにはいかない。
「俺が本当は何が怖かったのか、これからどうするのかも、話す。よく考えて、今度こそ決着をつけようと思う」
ロージャは驚いた様子で一瞬目を瞠ったが、すぐに伏せた。
「……そう、分かった。随分回り道をしたね?」
「全くだ」
苦笑いをしながら頭を岩に預け、上を見上げる。
見上げたってそこにあるのは偽の空だけだが、そうと分かっていてもこんな時は空を仰ぎたくなっちまう。
「……お前の話もさ、聞くのはその時でいいかな」
「え?」
「俺も、色々気持ちの整理つけてから聞きたいしさ。あ、ハイダラ達に聞かれたくない、とかであれば、違う時でもいいけど」
ロージャは昨日「君がどうしてこの島に来ることになったか知っている」と言った。
それはつまり、彼があの妙な男と何らかの関連があったと言う事だ。それもかなり強く。
正直に言って、それがどういう関係なのかは何となく予想がついている。ついてはいるけれど、もしもそれが本当だったとしたら俺はそれなりに衝撃を受けるだろう。予想することと実際に言葉で告げられるのとは大違いだ。
今はまだ、ちゃんとそれを受け止める準備ができていない。落ち着ききっていない。
もっとよく考えて、この前の自分の暴走に対する答えを出してから、ロージャの話を聞きたかった。
俺の言葉に、ロージャは軽く首を横に振って答えた。
「いいよ。急いでする話でもないし。ハイダラ達にも、聞いていて欲しいから。君の話の後で構わないさ」
「ありがとう。悪いな」
「……何だか、君に面と向かって礼を言われると気色悪いね」
不意にロージャがいつも通りに毒を吐いたので、俺は一瞬虚をつかれて唖然とした。
その時の俺の顔がよほど間抜けだったのか、ロージャがからからと笑い出す。つられて俺も少し笑った。
笑いながら、考える。
考えて考えて考えて、つきつめてまた考えて――。
俺はどうにか、それを言葉にしようともがきはじめた。
出来るなら近くに人が居ない方が都合が良かったが、何しろ今は探索者の大半がこの小さな島(島の中の島!)に閉じ込められている状態だ。どこにいたって多かれ少なかれ人目がある。
「ええと、それじゃあロージャ、目隠しよろしく」
「はいはい」
また人の姿になったロージャが呆れた声で言って、蔓模様が染め抜かれた肩掛けを広げた。俺が身につけても膝まで隠れるぐらい大きな肩掛けで、服を脱ぐ間の目隠しには充分な大きさだった。
彼が視線を遮ってくれている間、急いで下着一枚になった。ロージャから肩掛けを受け取って腰に巻き、落ちないようにピンで留める。うまいこと隠れたところで下着も脱ぐ。
それから脱いだものを一枚ずつ、小川の流れで水洗いした。長期戦になるから石鹸は無駄遣いしない方がいいだろう。カディムなら持っていそうだけれど、迷惑をかけまくった手前、あまりわがままも言えない。
洗い終わった服や下着は側の大岩に貼り付けて乾かす。今日はそこそこ気温が高いから何とか次の戦闘までには乾くだろう。
乾かしている間にもう一枚布切れを水に浸した。軽く絞ってから体を拭く。本当は水浴びをしたいが、こう人が多いとそれも難しい。無精髭を剃るのも、少しの間お預けだ。
最後に水をコップに汲んで、肩掛けを濡らさないように気をつけながら髪をすすいだ。それを何度繰り返しても、羽毛と化したうなじの毛は水を弾いた。……この事はあまり考えないようにしよう、今は。
「……はー」
やっと一段落ついたところで、岩に寄りかかって目を閉じる。
隣にロージャが腰を下ろす気配がした。
「落ち着いた?」
「何とか」
「頭痛と熱は? 昨日、酷いって言ってたけど」
「今は平気。薬飲んだら大分楽になった」
「そう。……服が乾いたら、アクエス君にお礼言いに行かなきゃね」
「……だな」
ため息を吐いて目を開ける。霞の向こうに光輝くユグドラシルの大樹が見える。まだ豊かに葉を繁らせたままだ。畜生め。
俺が勝手なことをしている間「代理」として動いていたロージャによれば、俺の不在は表向きには「体調不良」と言う事になっていたらしい。その話を聞いてアクエス君が二つ三つ風邪薬を用意してくれたそうで、実際俺は昨日の晩、彼の薬のお世話になったのだった。
ろくに飯も食わずうろついていたせいで体が弱っていたし、マナの侵食は俺の場合風邪のような微熱を伴っていた。おまけに昨日の戦闘で負った傷まで発熱して酷い目に遭った。半分ぐらいは自業自得だが。
アクエス君の薬はよく効いていて、今は普通に動き回れる程度に回復している。
「……結構苦かったけどもな。良薬口に苦しだっけ? やっぱ良く効く薬は苦いんかねぇ」
「そりゃ、思いっきり苦くしてくれって僕が言ったんだもの」
「お前か」
「だけど目、醒めたでしょう?」
「……まぁ、な」
もう一度ため息を吐く。
ロージャの言う通りで、俺の思考はまだ完全に元通りとは言いがたい状態だ。少し刺激の強いもの(たとえば苦みとか)で時々正気に戻してやらないと、またいつおかしくならないとも限らない。
一人で居た間の事を、全く覚えていないと言ったら嘘になる。
ただ、あの時の思考は余りにもとりとめがなくまとまりを欠いていて、とても時系列に沿って考えられるような代物ではない。こんなことがあった、ということをぼんやり覚えているだけだ。……それにしたって、俺のした事は許される事ではないけれど。
同時にあの時は外界からの刺激にも酷く鈍感になっていて、おかげで正気に戻ってからびっくりしなおしたことが幾つかある。
例えば。
「……しっかしまぁ、随分様変わりしたよなお前。今更だけどびっくりだ」
「遅い。本当なら会った時にびっくりしてなきゃおかしいんだぞ」
「悪い悪い。お、ちゃんと伸びるのなこの辺も」
「……っ! 餓鬼か君は!」
冗談で軽くロージャの頬を引っ張ったら、その手を思い切り叩き落とされた。痛い。
ロージャの姿は俺とはまるで正反対の格好だった。外見の年齢は二十代の半ばぐらいに見えるが、顔はもう少し幼く見える。大きな目は俺とは逆につり上がっていて、鼻も顎もつんと尖っていていかにも気が強そうだ。金色の猫毛は多分、文字盤部分の金の飾りが変化したものだろう。ひょろひょろした手足は細長い柄が形を変えたのかもしれない。
無理矢理化けているせいかどことなく作り物めいた雰囲気があるが、ふてくされたような表情の幼さがそれを和らげていて、とりあえずは人間に見える。
「……君がいない間は大変だったんだからな」
少しして、ぼそりとロージャが言った。
「ハイダラは食事も寝る間も惜しんで君を探し回るし、カディムが止めようとしてしょっちゅう引っ掻かれたり蹴倒されたりするし。僕が何度仲裁に入ったことか」
「……マジで?」
「君だって出会い頭に噛みつかれたただろう」
「あれは……うん、俺もおかしくなってたけど、それでもびっくりしたな」
「それだけ心配してたんだよ。……よく、獣が自分の仔をくわえて運ぶだろう。あれと同じさ。噛みついてでも君を確保して、安全な場所まで引っ張って行こうとしたんだ」
「……ああ、分かってる」
彼に噛みつかれた時は流石に驚いた。あの時は感覚が摩耗しきっていたけれど、それでも痛みと衝撃で少し正気に返った気がする。
俺から見たハイダラは割と落ち着いてのんびりしている印象が強くて(戦闘中にその片鱗を見せる事はあったけれど)カディムが言うような気性の激しさを目の当たりにした事はあまりなかった。だから彼に噛みつかれたのは、俺にとってはそれこそ目を覚まさせられるような出来事だった。
そしてハイダラがそこまで荒れていたというのも予想外で、カディムとロージャにとばっちりが行ってしまったとなると(ロージャはともかく)カディムには申し訳なさ過ぎていくら謝っても足りないぐらいだ。
……もう一度後でちゃんと、謝っておこう。ハイダラにも、カディムにも。
「ロージャ、俺さ」
「何」
「今日の晩か、明日にでも――ちゃんと、ハイダラ達に話をするよ。俺がやった事は本当にろくでもなくて、自分でも情けなくってしょうがねーけど、それでも、何であんな真似をしたのかって事は、話さなきゃならねーって思うから。……それから」
息を呑む。この事に触れるのは、まだ辛い。
それでもこれ以上、逃げ続けるわけにはいかない。
「俺が本当は何が怖かったのか、これからどうするのかも、話す。よく考えて、今度こそ決着をつけようと思う」
ロージャは驚いた様子で一瞬目を瞠ったが、すぐに伏せた。
「……そう、分かった。随分回り道をしたね?」
「全くだ」
苦笑いをしながら頭を岩に預け、上を見上げる。
見上げたってそこにあるのは偽の空だけだが、そうと分かっていてもこんな時は空を仰ぎたくなっちまう。
「……お前の話もさ、聞くのはその時でいいかな」
「え?」
「俺も、色々気持ちの整理つけてから聞きたいしさ。あ、ハイダラ達に聞かれたくない、とかであれば、違う時でもいいけど」
ロージャは昨日「君がどうしてこの島に来ることになったか知っている」と言った。
それはつまり、彼があの妙な男と何らかの関連があったと言う事だ。それもかなり強く。
正直に言って、それがどういう関係なのかは何となく予想がついている。ついてはいるけれど、もしもそれが本当だったとしたら俺はそれなりに衝撃を受けるだろう。予想することと実際に言葉で告げられるのとは大違いだ。
今はまだ、ちゃんとそれを受け止める準備ができていない。落ち着ききっていない。
もっとよく考えて、この前の自分の暴走に対する答えを出してから、ロージャの話を聞きたかった。
俺の言葉に、ロージャは軽く首を横に振って答えた。
「いいよ。急いでする話でもないし。ハイダラ達にも、聞いていて欲しいから。君の話の後で構わないさ」
「ありがとう。悪いな」
「……何だか、君に面と向かって礼を言われると気色悪いね」
不意にロージャがいつも通りに毒を吐いたので、俺は一瞬虚をつかれて唖然とした。
その時の俺の顔がよほど間抜けだったのか、ロージャがからからと笑い出す。つられて俺も少し笑った。
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